車椅子と睡眠の関係: 睡眠オタクな作業療法士の視点

車椅子に座ったまま居眠りすることは、一見すると便利そうに思えるかもしれませんが、実際にはいくつかの問題が生じる可能性があります。以下に、主な問題点を挙げます。

座位と臥位の違い

座ったまま眠る(座位)と臥位になって眠る(横になる)の違いは、身体への影響、睡眠の質、そして健康への長期的な影響において顕著です。以下に、姿勢の違いとその理由についての概要を述べます。

座位での睡眠

  1. 呼吸: 座位では、腹部に圧迫がかかりやすく、肺の拡張が制限されることがあります。これにより、呼吸が浅くなり、睡眠中の酸素取り込みが減少する可能性があります。
  2. 循環系: 座位では下肢への血流が悪化しやすく、静脈血栓症のリスクが高まることがあります。
  3. 筋肉と関節: 不自然な姿勢で長時間過ごすことにより、首や背中、腰に負担がかかります。これにより、痛みや不快感が生じ、睡眠の質が低下する可能性があります。
  4. 睡眠の質: 座位では、深い睡眠(ノンレム睡眠のステージ3、4)に入りにくく、睡眠の質が低下します。また、睡眠中断が多くなりがちです。

臥位での睡眠

  1. 呼吸: 臥位では、胸部と腹部が圧迫されにくく、肺がより効率的に拡張できます。これにより、酸素取り込みが増加し、呼吸が改善します。
  2. 循環系: 臥位は体全体の血流を促進し、心臓への負担を軽減します。
  3. 筋肉と関節: 正しい寝具を使用すれば、体の自然な曲線を支え、筋肉と関節への圧迫を減らします。これにより、痛みや不快感を軽減し、よりリラックスした睡眠を促します。
  4. 睡眠の質: 横になることで、深い睡眠の割合が増え、睡眠サイクルが正常に機能しやすくなります。結果として、睡眠の質が向上します。

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体位と圧迫損傷

不適切な体位

車椅子に座った状態での睡眠は、体が適切に支えられていないため、不自然な姿勢を長時間維持することになります。これにより、首や背中、腰などに痛みや不快感を引き起こす可能性があります。

圧迫損傷(褥瘡)

車椅子に長時間座っていると、体重が一点に集中しやすくなります。これにより、特定の体の部位に圧迫損傷が生じるリスクが高まります。

適切な体位変換や圧迫を避けるための措置が行われない限り、皮膚や組織の損傷が起こり得ます。

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呼吸と循環への影響

呼吸の問題

不自然な姿勢は、特に胸や腹部の圧迫を引き起こし、呼吸を妨げる可能性があります。これは、特に呼吸器系に既存の問題がある人にとって重要な懸念事項です。

また腹部への圧迫により肺の拡張を制限し、呼吸を浅くします。これは、睡眠時無呼吸症候群のリスクを高め、脳への酸素供給を低下させる可能性があります。

循環系への影響

長時間同じ姿勢を保つことは、下肢の血流を悪化させる可能性があり、静脈瘤や血栓のリスクを高めることがあります。

心理的要因

車椅子ユーザーは、移動の自由度が制限されることによるストレスや不安を感じやすく、これが睡眠の質を低下させる一因となります。

睡眠障害は、うつ病や不安障害とも関連があり、これらの心理的な問題を管理することが、睡眠の質の改善につながります。

睡眠の質

車椅子上での居眠りは「睡眠の質」が低くなります。当然のことですが、車椅子は睡眠を取るために設計されていません

したがって、車椅子での居眠りは、ベッドでの睡眠と比較して、質が低下します。

睡眠の質が低下すると、日中のパフォーマンスや気分、健康に悪影響を及ぼすことがあります。

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対策と改善策

車椅子ユーザーが安全に休息を取るためには、以下のような対策が考えられます。

  1. 適切な休息の場所を確保する: 可能であれば、ベッドやリクライニングチェアなど、体を適切に支えてくれる場所で休息を取ることが重要です。
  2. 圧迫損傷予防: 定期的な体位変換や圧迫損傷予防用のクッションの使用など、皮膚と組織の健康を保つための措置を講じることが大切です。
  3. 短時間の居眠りに留める: 長時間の睡眠は避け、短時間の休息や居眠りに留めることが望ましいです。

車椅子での居眠りを避けることが常に可能ではない場合もありますが、上記のような予防策を講じることで、そのリスクを最小限に抑えることができます。

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まとめ

車椅子ユーザーの睡眠は、多岐にわたる要因によって影響を受けます。身体的、心理的、環境的要因を総合的に考慮し、個々のニーズに合わせた睡眠改善策を講じることが、健康とウェルビーイングの向上に不可欠です。

作業療法士として、私たちは車椅子ユーザーが直面する固有の課題を理解し、それぞれに最適なサポートを提供することが、私たちの使命であり、お手伝いできることだと感じております。

ぜひ、車椅子と睡眠で悩まれている方がいらっしゃいましたら、担当のリハビリの先生に相談してみてください。

▼参考文献▼

①座位と臥位の違い

“Effects of Posture on Sleep Characteristics in Adults”: この論文では、様々な姿勢での睡眠が成人の睡眠特性にどのような影響を与えるかを分析しています。

“Sleep Medicine” ジャーナルや “Journal of Clinical Sleep Medicine”: 睡眠医学に関する最新の研究が掲載されており、姿勢が睡眠に与える影響に関する研究も含まれています。

https://www.physio-pedia.com/Wheelchair_Users

車椅子ユーザー、特に脳性麻痺の子どもたちにおいて、姿勢不安定は機能的なパフォーマンスと上肢機能に制限を与える主要な領域の一つです。姿勢不安定は、手動車椅子や電動車椅子の自己推進に困難を引き起こすことが示されています。このため、車椅子の適切な座位の確保は、機能と車椅子モビリティの向上に役立ちます​

https://resna.org/sites/default/files/legacy/conference/proceedings/2012/StudentScientific/Outcomes/EFFECTOFMUSCLEFATIGUINGTASKSONSUBACROMIALSPACEINMANUALWHEELCHAIRUSERS.html

また、脊髄損傷を持つ車椅子ユーザーの研究では、疲労した筋肉による肩の問題が明らかにされています。特に、重みを支えるリフトの繰り返しや肩の外旋運動などの疲労課題を行った後、筋肉疲労のサインが確認された参加者は、上腕骨頭の上方移動が見られ、肩の問題を悪化させる可能性があることが示されています。このような筋肉疲労は、車椅子に長時間座って居眠りすることで増加する可能性があり、肩の痛みや不快感につながることが示唆されています

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