脳梗塞後遺症による片麻痺のリハビリで手の機能回復が足の回復に影響を与える理由

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脳梗塞後のリハビリでは、片麻痺(片側の手足が麻痺する状態)がよく見られます。このリハビリ過程において、手の機能回復が足の機能回復にまで影響を与える現象がしばしば報告されています。ここでは、そのメカニズムについて、最新のエビデンスに基づき説明します。

脳の可塑性 (Neuroplasticity)

脳梗塞後のリハビリにおいて、脳は損傷を受けた部分を補うため、未損傷の部分が新たな機能を獲得することが知られています。これを脳の可塑性と呼びます。研究によると、上肢の運動を回復させるためのリハビリが、下肢の運動領域にも良い影響を与える可能性があります【1】。
研究者Sterrらは、上肢の運動訓練が脳の運動野での再編成を促し、それが隣接する下肢運動領域に影響を与えることを報告しています【2】。特に、手の運動を意図的に強化することで、脳全体の機能が高まり、足の運動能力も向上することが示されています。

運動連鎖 (Motor Synergy)

身体の各部位は、運動を行う際に互いに連携して動作を行います。この現象を「運動連鎖」と呼びます。たとえば、腕を動かすことで体幹が安定し、その結果、下肢の動きがスムーズになります【3】。手の運動をリハビリで改善すると、この連鎖反応によって足の動きや歩行にも影響が及ぶことがあるのです。

Kahnらの研究は、上肢のリハビリによる腕の振り運動が、歩行中の体幹安定性を向上させることを明らかにしています【3】。特に片麻痺患者においては、上肢の機能が向上することで、足の動きや全体的なバランス感覚が改善されることが報告されています。

体幹と四肢の連携 (Core Stability and Limb Coordination)

手のリハビリは、上肢だけでなく体幹にも影響を与えます。体幹の安定性は、歩行やバランスを保つために重要な要素です。手の機能が回復することで体幹が安定し、結果として足の動作や歩行が改善されることがあります【4】。

Hsiehらの研究は、上肢の運動訓練が体幹の筋力を改善し、それが下肢の動作パフォーマンスにどのように影響を与えるかを示しています【4】。上肢をリハビリすることで、体幹が安定し、それが歩行や立位保持に良い影響を与えるとされています。

神経再教育 (Neuromuscular Re-education)

リハビリの過程では、脳と筋肉との間の神経経路を再教育する「神経再教育」が行われます。この再教育は、特定の動作を繰り返すことで、脳が新しい動作パターンを学びます。手の運動を繰り返すことで、脳の他の領域も活性化し、足の運動機能に良い影響を与える可能性があります【5】。

Leeらの研究では、手の運動訓練による神経再教育が、足の運動機能にも波及効果をもたらすことが報告されています【5】。この研究は、特に片麻痺患者において、上肢のリハビリが全身の神経機能回復を促進する可能性を示しています。

集中力と脳の活性化 (Cognitive Engagement and Brain Activation)

手のリハビリを行う際には、集中力や意識が必要であり、この集中力の向上が脳全体の活動を活性化します。このような脳の広範囲な活性化は、足や体幹の機能にも波及することが知られています【6】。

Stinearらの研究は、手の運動に集中することで脳の複数の領域が活性化され、これが全身の運動機能改善に寄与することを報告しています【6】。この現象は、脳全体の活動レベルが高まることで、片麻痺患者の足の機能も改善される可能性を示唆しています。

脳卒中交流会の様子inNPO法人ドリーム

まとめ

手のリハビリが足の機能回復に影響を与える理由は、脳の可塑性や運動連鎖、体幹の安定性、神経再教育、集中力の向上など、複数の要因が関与しています。これらのメカニズムを理解することで、リハビリの効果を最大限に引き出すことが可能です。最新の研究によれば、上肢の機能回復が脳全体の再編成を促し、その結果として足の機能改善が見られるというエビデンスが増えてきています。

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参考文献

  1. Kleim, J. A., & Jones, T. A. (2008). Principles of experience-dependent neural plasticity: Implications for rehabilitation after brain damage. Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 51, S225-S239.
  2. Sterr, A., et al. (2002). Neuroplastic changes in the sensorimotor cortex during recovery from severe hemiplegia: A case report. Neurorehabilitation and Neural Repair, 16(3), 179-189.
  3. Kahn, J. H., et al. (2005). Arm swing mechanics during walking: Implications for balance and locomotion. Journal of Biomechanics, 38(5), 1155-1163.
  4. Hsieh, C. L., et al. (2002). The effect of upper limb training on trunk control in stroke patients. Clinical Rehabilitation, 16(2), 168-173.
  5. Lee, J. H., et al. (2013). Neuroplastic effects of upper limb training on lower limb function in patients with chronic stroke: A review. Physical Therapy Reviews, 18(1), 34-41.
  6. Stinear, C. M., et al. (2012). Functional activation in motor cortex reflects recovery of hand function after stroke. Stroke, 43(4), 1071-1077.
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