
この記事を書いたのは
睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。
医療現場で延べ3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、現在は三重県で「眠りのコツ研究所」と「Totonoe-整-」を運営しています。
国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。
ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。
本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。
目次
はじめに|“寝酒習慣”が静かに奪うもの――あなたの睡眠、本当に回復していますか?
「酒飲まないと眠れないんだよね」
がよく言う一言だったり…
「グラス一杯なら大丈夫」
「飲むとすぐ眠れるからラク」
そう思って寝酒を続けていませんか?
実はその“スッと寝落ち感”の裏で、脳と身体はフルマラソン後のように疲弊しています。
翌朝のだるさや集中力の切れは、アルコールが深睡眠をむしばみ、ホルモン分泌を阻害したサイン。
本記事では、「飲まないと眠れない」悪循環を科学で断ち切るために――
- なぜ少量でも睡眠の質が落ちるのか?【エビデンス解説】
- 寝酒に頼りやすい人の共通点と“心と体”の落とし穴
- 今日からできる脱・寝酒5ステップとリバウンド防止策
……を徹底的に掘り下げます。
読了5分後には「今夜はノンアルで寝てみよう」と思える――そんな“目からウロコ”の快眠ルートをお届けします。

寝酒のメカニズムと一時的な“ラクさ”
① GABA様作用で脳を鈍らせ入眠を促進
アルコールは中枢神経でGABAA受容体を刺激し鎮静をもたらします。
入眠潜時は短縮しますが、自然な眠気(睡眠圧)を誘発しているわけではないため「ニセの眠り」となります。
② メラトニン分泌を遅延させ体内時計を乱す
就寝前100 mLのワインでも松果体からのメラトニン分泌が最大30%抑制され、概日リズムを後ろ倒しにします(Ebrahim et al., 2013)。
朝起きるのが大変になったり、眠気が早々にきます。
③ 深睡眠短縮とREMリバウンド
アルコール代謝が進む夜半以降、交感神経が優位になり中途覚醒や悪夢が増加。
「夜中に目覚める→再度飲酒」や「夜間のトイレ」の悪循環を招きます。そして、飲んだ人はトイレ行ったことを覚えてなかったりします。

お酒を飲まないと眠れない人の特徴
- 日中ストレス過多で副交感神経が働きにくい
- 夜に考え事・予定確認をするクセがある
- 寝る直前までスマホ・TVで光刺激&情報過多
- 夕方以降のカフェイン・ニコチン摂取
- 「眠れない=ダメ」という強い不安(条件性不眠)
- 寝室が明るい/暑い/うるさいなど環境不良
自然な眠りと飲酒による睡眠の違い
「寝酒するとスッと眠れる」という感覚。
実はそれ、脳と身体の“休息の質”を大きく損なっている可能性があります。
一見似ているようで、自然な眠りと飲酒による眠りは、脳波構造・ホルモン分泌・自律神経の働きまで、まったく異なるものです。

自然な眠りのメカニズムとは?
自然な睡眠は、朝の覚醒から始まり、以下のステップで整っていきます。
- 朝の光で体内時計がリセットされ、夜に向けてメラトニンの合成が開始
- 夕方からメラトニン分泌が増え、副交感神経が優位に
- 深部体温が低下し、眠気(睡眠圧)が高まる
- 入眠後に深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が出現し、成長ホルモン・免疫系・記憶処理が活性化
- 約90分ごとにノンレムとレムを繰り返し、脳と身体が総合的に修復される
このサイクルこそが、「朝までぐっすり」「目覚めがすっきり」という快眠の正体です。

飲酒による眠りはどう違うのか?
一方、アルコールによる眠りは、脳が“眠ろうとしている”のではなく、化学的に抑え込まれている状態です。
- アルコールは脳のGABA受容体に作用し、脳機能を麻痺させるように入眠を促進
- 深部体温やメラトニンなどの自然な入眠準備は起こらない
- 深い睡眠は早期に現れるが短く、断続的になる
- アルコール代謝が進んだ夜中に交感神経が優位になり、中途覚醒や寝汗、悪夢を引き起こす
- レム睡眠が抑制され、記憶の統合や感情処理がうまくできない
- 成長ホルモンや性ホルモンの分泌も妨げられる
つまり、**寝たように見えて、実は“回復していない眠り”**が続くのです。

脳波とホルモンの違い(比較表)
項目 | 自然な眠り | 飲酒による眠り |
---|---|---|
脳波 | 徐波が安定し、ノンレム→レムの循環 | 徐波が短く断片化、レムは抑制されたまま |
メラトニン | 夜に向けて分泌が増える | 分泌が抑えられ、体内時計が乱れる |
成長ホルモン | 深睡眠中にしっかり分泌される | 分泌が低下、筋・骨・皮膚の再生に影響 |
自律神経の状態 | 副交感神経が優位 | 交感神経がリバウンド的に過活動になる |
翌朝の目覚め感 | すっきり、頭が冴える | だるさ、寝た気がしない、頭が重い |
なぜ「寝たのに疲れが取れない」のか?
睡眠には、「眠ること」と「回復すること」の両方が必要です。
しかしアルコールは、眠りの表面(入眠)を強引に演出しても、その裏で睡眠の中身(深睡眠やホルモン分泌、神経回復)を壊してしまいます。
結果的に、次のような問題が起こります。
- 筋肉・皮膚・内臓の修復が進まない
- 情緒が安定しない(レム不足)
- 自律神経が整わず、日中にだるさ・焦り・不安が残る
- 睡眠による疲労回復効果がなくなっていく
「寝ているのに疲れが取れない」という人は、飲酒による“なんちゃって睡眠”にハマっている可能性があります。
寝酒が招く7つの具体的問題
- 日中の強い眠気と集中力低下
- 睡眠時無呼吸症候群(OSA)の悪化
- むずむず脚症候群/周期性四肢運動の増加
- 夜間高血圧・不整脈リスク
- 成長ホルモン・テストステロン分泌低下
- 胃食道逆流症(GERD)による覚醒
- アルコール依存症・気分障害の進行

脱・寝酒!5つの実践ステップ
STEP1|ナイトルーティンを置き換える
ノンカフェインハーブティー+温シャワー→5分クールダウンで深部体温をコントロール。
STEP2|光と温度で体内時計をリセット
起床後30分以内に朝日2,500 lux、就寝90分前に室温26→24 ℃へ。
STEP3|寝酒代わりの呼吸+伸展エクササイズ
4-7-8呼吸+背部伸展で迷走神経を刺激し、心拍が7〜10 bpm低下したら入眠準備OK。
STEP4|アルコールタップリダクション法
週−10%ルールで用量を漸減し、ビール→低アル→ノンアルへ段階置換。
STEP5|眠れない夜のプランB
20分眠れなければベッドを出て紙媒体読書。0時を過ぎても眠気が無ければ翌朝の起床時刻を固定し、昼寝15分でリカバー。
それでも眠れないときの医療的アプローチ
- CBT-I:8週間で睡眠効率+15%
- メラトニン受容体作動薬:依存リスク極小
- 短時間作用型非ベンゾ系:2週以内頓用+離脱計画
- アルコール依存専門外来・精神科紹介

まとめ|“本物の眠り”はアルコールを必要としない
寝酒は短期的な鎮静の代償として深睡眠・ホルモンバランス・脳の回復力を犠牲にします。
今日から紹介した5ステップで寝酒サイクルを断ち、“本物の眠り”で明日のパフォーマンスを変えてみませんか?
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