脳梗塞後遺症による片麻痺者の体幹機能と神経生理学的アプローチ:日常生活の支障とエビデンス

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脳梗塞後に片麻痺を経験する方々にとって、手や足の動きが気になる方が多いです。

しかし、その土台ともなる体幹(胴体)の機能はバランス、動作、姿勢の維持において極めて重要です。

本記事では、片麻痺が体幹に与える影響や、日常生活で起こる具体的な支障について、睡眠オタクな作業療法士が詳しく解説します。

適切なリハビリテーションを行うことで、日常生活の質を大幅に向上させることが期待できます。

片麻痺が体幹に与える影響と日常生活への支障

筋力の低下と動作の困難

麻痺側の筋力が低下することで、体幹のバランスが崩れやすくなります。これは動いている最中だけでなく、寝ている座っているなど、静的な姿勢の状態での崩れがみられます。

いってしまえば、動く前からの崩れており、崩れたまま動くことでより崩れやすくなってしまうということです。

そのため、非麻痺側に過剰な負担がかかります。これにより、日常生活での基本的な動作が大きな重心移動を必要とするなどして、疲れやすさや転倒のリスクへとつながりやすくなります。

例えば、椅子から立ち上がる際に装具の影響なども含め、麻痺側に力が入らず、非麻痺側で手すりをひっぱることで、体が一方に傾いてしまうことが多くあります。このような場合、転倒のリスクが高まり、周囲の家具やサポートを必要とする場面が増えるでしょう。

このようなことから、ベッドサイドでの転倒というものが案外多かったりします。

Journal of Gerontology (2019年) による研究で、片麻痺者の筋力低下が日常生活動作の困難さと関連していることが示されています。

筋緊張の異常(痙縮と弛緩)

麻痺側の筋肉が不随な運動や痙縮したり、逆に力が入らない(弛緩)ことがあり、動作の柔軟性と自由度が大幅に制限されます。これにより、体幹よりも四肢での運動で代償することがあり、姿勢を安定させる筋肉が多い体幹が働かず、動作が不安定となってしまいやすくなります。

例えば、ベッドから起き上がる際に足がつっぱり、体がうまく曲がらず、麻痺側の筋肉が固まってしまうため、手すりをひっぱると余計に身体が硬くなってしまい、起き上がりができないことがしばしばあります。このため、家族や介護者の助けが必要となることが増えるでしょう。

Neurorehabilitation and Neural Repair (2020年) による研究で、筋緊張の異常が日常生活における移動や姿勢変換を困難にすることが確認されています。

左右非対称性の影響

麻痺側と非麻痺側の筋力バランスが崩れると、体幹が傾くため、姿勢が不安定になります。

この左右の不均衡により、筋肉や関節に過度な負担がかかることがあります。立っているときに麻痺側の腰が後方引けていたり、重心が後方に傾いてしまい、腰や背中に痛みが生じ、長時間の立位が苦痛になることがよくあります。痛みや不安定な姿勢は、家事や買い物などの立ったまま行う作業が難しくなるでしょう。

Physical Therapy Reviews (2018年) にて、左右非対称の姿勢が慢性的な筋骨格系の問題を引き起こす可能性があると報告されています。

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予測的姿勢制御の役割と日常生活での影響

歩行や動作時の不安定さ

予測的姿勢制御とは、動作を行う前に脳が事前に筋肉を活性化させることで、姿勢を安定させるメカニズムです。この制御メカニズムは、主に運動前野や小脳が関与しており、動作の精度と安定性を支えています。

片麻痺者の場合、脳梗塞による神経回路の損傷だけでなく、非麻痺側の過剰的な代償動作により、この予測的姿勢制御が機能しにくくなり、バランスが崩れやすくなります。

予測的姿勢制御がうまく働かないと、歩行時や階段の上り下り時に体がふらつきやすくなり、転倒のリスクが高まります。

Stroke Rehabilitation (2021年) による研究で、予測的姿勢制御の障害が動作中の転倒リスクを増加させることが確認されています。

神経生理学的背景

運動前野や小脳の損傷が予測的姿勢制御に影響を与え、その結果として日常動作の不安定さが引き起こされることが示されています。

例えば、腕を伸ばして物を取る際に、体が前方に傾きやすく、何かに掴まらないと安定しないことがあります。

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身体図式とその影響:日常生活での困難

物の操作や空間把握の問題

身体図式とは、自分の身体の位置や動きを無意識に把握するための脳内のマップです。片麻痺者では、この身体図式が麻痺側で損なわれることが多く、動作や姿勢のコントロールが困難になります。

身体図式が損なわれると、麻痺側の手足の位置や動きを正確に認識できず、日常生活の動作が失敗しやすくなります。調理中に鍋を持つ際、麻痺側の手でしっかり握れず、誤って鍋を落としてしまうことがあるかもしれません。

Neuroscience Letters (2020年) による研究で、身体図式の障害が運動制御や空間認識に影響を与えることが確認されています。

感覚フィードバックの必要性

視覚や触覚のフィードバックを利用して、身体図式を再構築することが重要で、これにより、動作の精度を向上させることができます。というようなことが言われたりしています。

実際に脳の中を触ることができないため、筋肉の動きなどの運動感覚により脳へ情報がいくことで、脳の中の身体図式をアップデートしていくことをリハビリの中でしていきます。

機械でのリハビリよりも、理学療法士・作業療法士と一緒に動くことはより身体図式への影響を与えると考えられます。

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代償動作とその影響:日常生活での具体的な問題

非麻痺側への依存と疲労

代償動作とは、麻痺側の機能が損なわれた結果、非麻痺側の筋肉や動作パターンを過剰に使用して目的の動作を行うことを指します。代償動作は一時的には効果的ですが、長期的には筋肉のアンバランスや関節への負担を引き起こす可能性があります

麻痺側の機能が低下しているため、非麻痺側に過度に依存し、筋肉の疲労や痛みが生じます。日常的に片手だけを使って重い物を持ち上げるため、非麻痺側の肩や腕に慢性的な痛みが発生することがよく見られます。

しかし、非麻痺側での生活は当然であり、そうでないと生活ができません。そのため、麻痺側のリハビリも重要ですが、非麻痺側のケアをすることはより大切になってきます。

Clinical Biomechanics (2021年) では、代償動作が非麻痺側の筋骨格系にストレスをかけ、痛みや障害を引き起こすリスクがあると示されています。

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まとめ

脳梗塞後遺症による片麻痺者にとって、体幹の機能はバランス、動作の安定性、予測的姿勢制御、身体図式、代償動作と密接に関連しており、日常生活において多くの支障を引き起こします。

これらの要素を理解し、神経生理学に基づいたエビデンスに沿ったリハビリテーションを通じて、日常生活の質を大幅に向上させることが可能です。

参考文献

  1. Journal of Gerontology (2019): 筋力低下が日常生活動作の困難さと関連する研究。
  2. Neurorehabilitation and Neural Repair (2020): 筋緊張の異常が移動や姿勢変換を困難にすることを確認。
  3. Physical Therapy Reviews (2018): 左右非対称の姿勢が慢性的な筋骨格系の問題を引き起こす研究。
  4. Stroke Rehabilitation (2021): 予測的姿勢制御の障害が動作中の転倒リスクを増加させることを示す研究。
  5. Neuroscience Letters (2020): 身体図式の障害が運動制御や空間認識に影響を与える研究。
  6. Clinical Biomechanics (2021): 代償動作が非麻痺側の筋骨格系にストレスを与えることを報告。

「脳梗塞後遺症による片麻痺者の体幹機能と神経生理学的アプローチ:日常生活の支障とエビデンス」への1件のフィードバック

  1. ピンバック: 脳梗塞の後遺症はどんなの?脳梗塞後遺症からの回復についてまで - Good Sense

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