
この記事を書いたのは
睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。
医療現場で延べ3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、現在は三重県で「眠りのコツ研究所」と「Totonoe-整-」を運営しています。
国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。
ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。
本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。
目次
◆ はじめに ― “眠れない体”は腸から作られる
「布団に入っても寝つけない」
「夜中に何度も目が覚める」
「便秘やお腹の張りが慢性化」――
そんな悩みを同時に抱える人は少なくありません。私が専門職として気づいた確かな事実は、
眠りの質と腸の健康はコインの裏表
ということ。本稿では、睡眠を主軸に腸活を“後付けの流行”ではなく本質的な必須条件として解説します。

腸は第二の脳―睡眠を司る“臓器”である
腸は独立した神経ネットワーク
腸には約1億個の神経細胞が存在し、自律的に動くため「第二の脳」とも呼ばれます。
睡眠中も腸は黙々と働き、夜間のノンレム睡眠中に粘膜修復と代謝解毒を行います①。
眠れない=腸が修復できない、という相互依存関係がここにあります。
セロトニン90%は腸で産生
幸福ホルモンと呼ばれるセロトニンの95%は腸の粘膜細胞で合成されます。
日没後、脳の松果体でセロトニンがメラトニンへ変わることで眠気が訪れます。
腸が荒れる → セロトニン不足 → メラトニン不足 → 浅い眠り。これは多くの研究で確認されたメカニズムです。
腸が乱れるとノンレム睡眠が浅くなる
炎症性サイトカインや腸ガスは迷走神経を刺激し、睡眠深度を司る視床下部を興奮させます。
その結果、深睡眠が減少し「寝た気がしない朝」へ直結します。

体内時計と腸時計―ズレると眠りは崩れる
腸にも“時計遺伝子”がある
肝臓・腎臓と同様、腸の上皮細胞もClock/Bmal1などの時計遺伝子を有し「いつ動くか」を自律制御します。
食事時刻のズレ=腸時計の遅延
夕食が日替わりで19時→22時→20時…と揺れると、腸時計が後ろ倒しになりメラトニン分泌も遅延。
結果、入眠が後ろへずれます。
“朝の光+朝食”が全身時計のリセットボタン
起床後1時間以内の<強い光>+<固形の朝食>が脳と腸の時計を同調させ、夜のメラトニンピークを安定させます。
日中の食内容が夜のメラトニン量を決定
トリプトファン・ビタミンB6・マグネシウム・亜鉛――
これら“メラトニン四銃士”を昼までに摂れると、夜の寝つきが大きく改善します。
睡眠を阻む“腸に悪い習慣”4選
習慣 | 腸への影響 | 眠りへの影響 |
---|---|---|
添加物・人工甘味料 | 善玉菌を減らし粘膜炎症を誘発 | メラトニン生成低下・中途覚醒増加 |
夜間のカフェイン・アルコール | 粘膜刺激と脱水 | 深睡眠短縮・利尿で覚醒 |
遅すぎる夕食 | 腸内ガス増加・逆流 | 胃もたれで寝返り減少→浅睡眠 |
寝る前のスナック&血糖スパイク | 腸内悪玉菌優位 | 夜間低血糖リバウンドで覚醒 |
“眠れる腸”を育てる1日のデザイン
▲ 朝:腸スイッチONルーティン
- 白湯を200 mL――迷走神経を穏やかに刺激
- 発酵食品+たんぱく質(納豆×卵×味噌汁)でセロトニン材料補給
- 10分の朝日浴で脳・腸時計を同時リセット
▲ 昼:セロトニンの“仕込みタイム”
- 高たんぱく&食物繊維ランチ(鶏むね+雑穀米+サラダ)
- カフェインは14時まで――夜の腸興奮を避ける
- 15分の軽いウォーキングで腸蠕動+ビタミンDチャージ
▲ 夜:腸を休ませる“温活ナイト”
- 夕食は就寝2時間前まで、量は昼7割
- 消化に優しい和食(雑炊・温野菜・味噌汁)
- 腹巻きor湯たんぽで腸を38℃前後に保温
- 3分腸ゆらし+腹式呼吸(吐く6秒:吸う4秒)で副交感神経優位へ
- 就寝30分前はスマホ完全オフ、暖色照明でメラトニン保護
腸と睡眠障害―医学データが示す3つの事実
- IBS患者の約70%が睡眠障害を合併②
- 睡眠不足3日で腸内細菌多様性が15%低下(ヒト実験)③
- 慢性腸炎モデルマウスは睡眠薬ゾルピデムの効果が有意に減弱④
これらは、「腸が炎症状態だと睡眠薬も効きにくい」という臨床感覚を裏づけています。

腸が整うと起こる5つのポジティブ変化
- 入眠潜時が短縮――副交感神経スイッチが即ON
- 中途覚醒が減少――腸ガス・胃もたれ由来の覚醒が激減
- 爽快な目覚め――コルチゾールの自然サージが正常化
- PMS・気分変動の緩和――セロトニン安定供給
- 日中パフォーマンスUP――自律神経の振幅が整う
行動変容ガイド:今日から始める腸×睡眠セルフケア
ステップ | 具体行動 | 期待される効果 |
---|---|---|
① 温活 | 湯たんぽ・腹巻きで腸温38℃ | 腸蠕動↑・副交感神経↑ |
② 食習慣 | 朝発酵・昼たんぱく・夜軽食 | セロトニン材料確保・胃負担↓ |
③ ラベルチェック | 添加物・人工甘味料を週−50% | 善玉菌↑・メラトニン合成↑ |
④ 呼吸ケア | 4-6呼吸×3分/就寝前 | 迷走神経刺激→入眠促進 |
⑤ 生活リズム | 起床±30分以内・朝日浴 | 脳/腸時計の同調→深睡眠↑ |
睡眠薬を手に取る前に、まずは1週間だけ“腸活ルール”を試してみてください。
大半の方が「驚くほど寝つきが変わった」と実感しています。

まとめ―睡眠薬の前に“腸”を診よ
- 睡眠は“脳”だけの問題ではない。腸が整わなければ根本改善しない。
- 腸が冷えている人ほど浅い眠りに陥りやすい。温活は最速のセルフケア。
- 添加物・人工甘味料・夜スナック――便利さの裏に“眠れない腸”が潜む。
- 睡眠薬を検討する前に、腸活を1週間。本当の回復はそこから始まる。
「腸が微笑めば、脳は眠る。」
明日の朝、白湯と味噌汁であなたの“腸時計”をスタートさせてみましょう。
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よくある質問
Q1. 寝る前にヨーグルトは腸に良い?
A. 乳酸菌補給という点では◎ですが、タイミングと温度が鍵になります。
- 冷えがデメリット:冷蔵庫から出した直後のヨーグルト(5 ℃前後)は腸を一時的に冷やし、副交感神経の切り替えを妨げます。就寝前は体温が自然に下がり始める時間帯なので “追い打ちの冷え” は逆効果。
- 最適解は“常温”か“ホットヨーグルト”:電子レンジで10~15秒温め(40 ℃程度)、同時に Bifidobacterium breve や Lactobacillus gasseri などヒト由来株を含む製品を選ぶと、腸内定着率が高まりメラトニン合成をサポートします。
- ゴールデンタイムは“夕食後30~60分”:胃に余裕があるため乳酸菌が小腸へ移行しやすく、寝る頃には体温低下を邪魔しません。
Q2. 甘いものがやめられません。どうすれば?
A. 「完全禁止」より“血糖と腸内細菌のマネジメント”が現実的です。
- 時間を昼までに限定:脳の報酬系は午前中の方がストレスに左右されにくく、インスリン感受性も高い。
- 選択肢を“果物+タンパク質”へ置換:バナナ+無糖ギリシャヨーグルトなど、トリプトファン補給と血糖緩衝を同時に達成。
- マグネシウム&クロム不足を補う:不足すると“砂糖渇望ホルモン”が増えやすい。アーモンドやカカオ72 %チョコを10 g程度プラスすると欲求が落ち着きます。
- 夜間低血糖リバウンドを防ぐ:寝る前の糖質急増→インスリン急上昇→深夜低血糖→コルチゾール放出→覚醒、という悪循環を断ち切れます。
Q3. 食物繊維を増やしたらお腹が張ります。
A. “繊維の質と腸の発酵力”をマッチさせると張りは激減します。
- 水溶性 vs 不溶性のバランス:張りが強い人は不溶性が多すぎ。まずはオクラ・海藻・大根おろしなど水溶性7:不溶性3を目安に。
- プレ発酵という裏技:オートミールや玄米を一晩浸水→乳酸菌か甘酒を大さじ1混ぜて軽く発酵させると難消化性デンプンが減り、ガスも半減。
- 摂取量は“1日+5 gずつ”段階増量:腸内細菌は餌が急に増えると過剰発酵します。短鎖脂肪酸産生菌(Faecalibacterium prausnitzii など)が育つまで約1–2 週間の“慣らし期間”が必要です。
Q4. IBSでも実践できますか?
A. はい、ただし「刺激物除去 → 低FODMAP → 段階的再導入」の三段ロケットが安全です。
- フェーズ1:腸を沈静化―カフェイン・アルコール・辣味調味料・人工甘味料をまず1 週間カット。
- フェーズ2:低FODMAP―小麦・玉ねぎ・乳糖など発酵しやすい糖質を4–6 週間限定除去し、下痢型・便秘型ともに症状スコアを記録。
- フェーズ3:テーラーメイド再導入―耐性判定に通った食材から徐々に戻すと腸内多様性を維持できます。
同時に骨盤底リラクゼーション呼吸と腹横筋エクササイズを併用すると、ガス溜まりや便通リズムがさらに安定し睡眠覚醒指数も低下する傾向があります。
Q5. 睡眠薬を飲んでいるが改善が乏しい…
A. 背景に「腸炎症」「肝・腸相互代謝」「睡眠構造の薬理差」が隠れている場合が多いです。
- 腸炎症による薬効低下:炎症性サイトカインは血液脳関門を変性させ、ベンゾ系のGABA_A受容体親和性を下げる報告あり。腸の炎症マーカー(Calprotectin)が高い人ほど薬効が落ちやすい<sup>※</sup>。
- 肝・腸 CYP450 共同代謝:腸内細菌がCYP3A4の発現を変え、ゾルピデム・エスゾピクロンの体内動態が変動。プレバイオティクス介入で半減期が安定した例も。
- “寝かす”が“休める”ではない:中枢を抑制して入眠させても、ノンレム第3段階(深睡眠)が薬理的に抑制されることがあり、結果的に回復感は得にくい。
対策:①腸炎症の鎮静(添加物カット+温活+短鎖脂肪酸補給)、②医師と相談し <em>投与量のマイクロタイトレーション</em>、③深睡眠を増やす行動療法(CEP:Chronobiological Entrainment Program)を並行する――この三位一体が最短ルートです。
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参考文献
① Gómez-Galán J. et al. PLoS One, 2023
② Jarrett M. et al. Sleep Medicine, 2021
③ Benedict C. et al. Gut Microbes, 2016
④ Yamano T. et al. Journal of Neuro-Gastroenterology, 2022