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作業療法士・睡眠専門家としての医療的専門性に加え、企業の経営企画や人材育成支援に実務レベルで関わる「人的資本経営の伴走者」、石垣貴康が執筆しています。

これまでに、企業への健康投資導入や社内講座提供、ブランディング支援、助成金を活用した人材開発講座の企画・監修などを多数担当。
さらに、睡眠と健康をテーマにした書籍を出版し、専門家としてメディア出演の実績もあります。

自身も複数の事業を運営しながら、「科学的根拠 × 現場実践」の視点で、“働く人と組織=環境が健康的に成果を出す仕組みづくり”を支援しています。

「また感情的に反応してしまった…」

「つい言いすぎた…」

「あのとき、黙ればよかった…」

そんなふうに、自分の感情に振り回されて、あとから後悔する。

あるいは、相手の態度や言葉にイライラしてしまう。――

それは、あなたに「感情の知性=エモーショナル・インテリジェンス(EI)」が足りないからではなく、単に“扱い方”をまだ学んでいないだけかもしれません。

本記事では、EQ(心の知能指数)とも呼ばれる「エモーショナル・インテリジェンス」の本質を、科学と実践の両面からやさしく解説します。

目次

エモーショナル・インテリジェンス(EI)とは?

EQとの違いと定義

EI(Emotional Intelligence)とは、
自分自身と他者の感情を正確に認識し、理解し、適切に対応する能力のこと。

心理学者ダニエル・ゴールマンは、これを「人生を豊かにする知性」と定義しています。

「EQ(Emotional Quotient)」はその能力を測定する指標であり、
EIは「スキルや行動」、EQは「数値」や「傾向」のようなイメージです。

ダニエル・ゴールマンによる5つの能力

  1. 自己認識(Self-Awareness)
     感情に気づき、把握する力
  2. 自己管理(Self-Regulation)
     感情をコントロールし、適切な行動に変える力
  3. 動機づけ(Motivation)
     自分を前向きに動かし続ける内発的な力
  4. 共感(Empathy)
     相手の気持ちをくみ取り、寄り添う力
  5. 対人スキル(Social Skills)
     良好な関係性を築き、協働できる力

IQよりEQが注目される時代背景

かつては、知能指数(IQ)が高ければ仕事ができるとされてきました。

しかし近年では、「知識や技術」だけでなく、「人と関わる力」が成果に直結すると言われています。

Googleの社内研究「プロジェクト・アリストテレス」でも、
チームの成功を左右するのは“感情の扱い方”であるという結果が示されました。

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感情コントロールができないとどうなる?

感情に流されると判断ミスが起きやすい

怒り・不安・焦り――こうした強い感情に飲まれた状態では、冷静な判断や建設的なコミュニケーションは難しくなります。

人間の脳は、**扁桃体(感情の中枢)>前頭前野(理性)**の順で反応しやすく、
“感情の暴走”は脳科学的にも自然な反応なのです。

だからこそ、「気づいて整える力」が求められるのです。

自己否定や人間関係の悪化につながる

感情に振り回されると、

「また失敗した…」

「自分はダメだ」と自責に陥りがちです。

その結果、自信を失い、自己肯定感も低下します。

また、相手に強く言いすぎたり、逆に言いたいことを飲み込み続けたりすると、
人間関係にもストレスが積み重なります。

メンタル不調や燃え尽きのリスクも

EIが低い状態では、ストレスを蓄積しやすく、
うつ・不眠・燃え尽き(バーンアウト)といったリスクも高まります。

一方で、EIが高い人は、**ストレス対処能力(コーピング)**が高く、
メンタルヘルスの安定にもつながることが研究でも示されています(Salovey et al., 2002)。

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EIが高い人に共通する5つの特徴

① 自分の感情を客観視できる

「今、自分は怒っているな」
「これは不安からくる緊張だ」
と、感情に“ラベル”をつけられる人は、EIが高い人の特徴です。

これにより、感情に支配されず「整理してから行動する」ことが可能になります。

② 感情を適切に表現できる

EIが高い人は、「我慢」や「感情爆発」ではなく、
落ち着いた言葉で、自分の気持ちを伝える技術を持っています。

たとえば:「○○と言われたとき、少し悲しく感じました。なぜなら~」といったIメッセージでの表現。

③ 衝動的な反応を抑える力がある

イラっとしても、すぐには反応しない。
一呼吸置いたり、その場を離れる選択ができるのも、EIの高さです。

反応ではなく、選択で動ける」――これが対人スキルの鍵になります。

④ 他人の感情に共感できる

EIが高い人は、「あの人、疲れてそうだな」「戸惑ってるのかも」と、
相手の表情・言葉の裏側にある感情を察知する力があります。

共感は、単なる“優しさ”ではなく、感情知性によって成り立つ技術です。

⑤ 状況で感情を使い分ける柔軟性

EIの高い人は、「今は明るく接したほうがいいな」「ここは冷静に淡々と話そう」など、
場面に合わせて感情をコントロールし、最適なコミュニケーションを選択できます。

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EIを高める5つのトレーニング法

① ジャーナリング(感情の書き出し)

毎日5分でもよいので、「今日の自分の感情」をノートに書き出すだけで、
自己認識力が高まり、気持ちの整理がしやすくなります。

ポイントは、“良い感情”も“ネガティブな感情”も、どちらも否定せず言語化すること。

② 呼吸・マインドフルネスで“間”をつくる

EIが高い人は、「反応する前に一呼吸」できる人です。

そのために有効なのが、マインドフルネス呼吸法。
1日3分、呼吸に意識を向けるだけでも、前頭前野(理性)を活性化し、感情の暴走を抑える効果があります。

③ Iメッセージで伝える練習

「あなたが悪い」ではなく「私はこう感じた」と伝える

たとえば、
「イライラしているように見えて怖かった」よりも、
「私はあのとき、緊張してしまいました」と自分を主語にする。

これは、アサーティブ・コミュニケーションの基本でもあります。

④ 感情に名前をつける“ラベリング”

感情を明確に分類することで、脳が落ち着くことがわかっています(感情ラベリング効果)。

「悲しい」「むなしい」「イライラ」「不安」など、できるだけ具体的に言語化しましょう。
「なんとなくモヤモヤする」が「焦りと不満」だと分かれば、対応策が変わります。

⑤ フィードバックをもらい続ける環境づくり

自分のEIを高めるには、フィードバックを受ける機会を意識的につくることが重要です。

「最近どう見えてる?」「感情表現、伝わってるかな?」といった対話ができる職場や仲間がいると、成長が加速します。

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リーダーにとってのEIとは?

リーダーに求められる「自己と他者の感情理解」

組織やチームでは、単なる指示・管理だけではなく、
「相手の気持ちを読み取り、励まし、寄り添う力」が求められます。

それは、知識や経験だけではカバーできない、感情のセンス=EIの高さがものを言う領域です。

EIが高いリーダーはなぜ信頼されるのか?

  • ミスを叱るのではなく、「どんな背景があったか」をまず聞く
  • 指摘だけでなく、リカバリー支援まで行う
  • 自分の感情も正直に表現し、距離感が自然

このような上司は、部下にとって「心理的安全性」が高く、結果として成果にもつながりやすいのです。

部下のモチベーション・心理的安全性に影響する

EIが高いリーダーは、部下の不安やストレスサインに気づくことができます。
それによって「フォローのタイミング」「声かけの質」も変わってきます。

「気にかけてくれている」という感覚があるだけで、人は自発的に動けるようになります。

こんな人はEIが高い!実例&ケーススタディ

共感型マネージャーの対応力

Aさんは、感情表現が控えめなメンバーが発言しなかった会議後に、
「〇〇さんの反応、少し気になったな」と声をかけた。

→その一言で、部下は安心して本音を話し、改善提案が生まれた。

衝突を対話に変える“感情設計力”

ある看護師リーダーは、ミスをした後輩に対して、
「私も最初、同じように焦ったことがあるよ」と自分の失敗経験を共有した。

→それにより、相手の防衛心が和らぎ、真摯な改善が進んだ。

「黙る勇気」と「聞く技術」を持つ人の共通点

EIが高い人は、「すぐに助言しない」「アドバイスより“受け止め”」が上手です。

場の空気を読みながら、「聞くことにエネルギーを注げる人」は、信頼される存在になりやすいのです。

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まとめ|EIは“思いやり”を内面から育てる力

感情は、抑えつけるものではなく、“整える”もの。

そして、エモーショナル・インテリジェンスは、誰もが後天的に高められるスキルです。

もちろん、社内研修をしてきた経験よりセンスの差はあると私個人的には思います。

ただ、研修時のワークショップで、以下の3点を意識することは大切だと感じています。

  1. 自分の気持ちを、まずは自分が理解すること
  2. 相手の感情を、決めつけずに観察すること
  3. 怒り・不安・焦りを、選択可能な「反応」に変えていくこと

これらができるようになると、
人間関係・メンタルヘルス・自己理解・仕事の成果

――すべてが好循環に向かいます。

EIとは、「知性の使い方」を問う、新しい時代の教養なのです。

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よくある質問(FAQ)

Q1:エモーショナル・インテリジェンス(EI)とHSPの違いは何ですか?

HSP(Highly Sensitive Person=繊細な気質)は生まれ持った「感受性の高さ」であり、先天的な特徴です。

一方、エモーショナル・インテリジェンス(EI)は「感情を認識し、整理し、活かす力」であり、自己理解・共感力・感情コントロールなど、後天的にトレーニングで高めることが可能な“スキル”です。

つまり、HSPは生まれつき、EIは育てられる力です。

Q2:EQ(感情知能)は性格によって決まるものですか?

EQ(Emotional Quotient)は性格の影響を受ける側面もありますが、本質的には「行動と思考の習慣」によって変化する力です。

たとえば内向的な人でも、感情に気づき、適切に表現・共有する方法を学ぶことで、高いEIを発揮できます。

実際、Googleやスタンフォード大学の研究でも、EQは「伸ばせる能力」とされています。

Q3:感情表現が苦手でもエモーショナル・インテリジェンスを高められますか?

もちろん可能です。

EIは「感情をうまく言葉にする力」だけではなく、「自分の感情に気づいて整える力」も含まれます。

表現が苦手な人はまず、自分の感情を観察・記録することから始めるのが効果的です。

マインドフルネスや感情ジャーナルなどを通じて、徐々に“気づく力”を高めることで、対人関係や仕事でのEQ活用力も飛躍的に成長します。

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参考書籍・関連記事リンク

  • 『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン)
  • 『感情的にならない本』(和田秀樹)
  • 『EQ 2.0』(トラビス・ブラッドベリー)
  • 関連記事:「ストレスと脳の関係」「アサーティブ・コミュニケーションの習得法」