この記事を書いたのは

睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。

医療現場で延べ3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、「動きと休息のすゝめ」をベースに、現在は三重県で「Totonoe-整-」を運営しています。

国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。

ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。

本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。

かつて、睡眠は「ノンレム睡眠ステージ1〜4+レム睡眠」に分類されていました。しかし現在、多くの教科書や講義では「ノンレム睡眠はステージ1〜3まで」と説明されています。

「え、ステージ4はどこに消えたの?」

睡眠を勉強した人ほど、ここで違和感を覚えるポイントです。本記事では、睡眠オタクな作業療法士として、ノンレム睡眠のステージ4がなぜ廃止され、ステージ3に統合されたのかを、できるだけわかりやすく、そしてどこよりも深く解説します。

昔は「ノンレム睡眠ステージ1〜4」だった

少し前まで、睡眠は以下のように説明されてきました。

  • ステージ1:うとうとし始めた浅い眠り
  • ステージ2:外からの刺激が少し入りにくくなる浅〜中等度の眠り
  • ステージ3:深い眠り(徐波睡眠)
  • ステージ4:さらに深い眠り(最深部の徐波睡眠)
  • REM睡眠:夢を見やすく、身体は脱力している眠り

特にステージ3と4は「深睡眠」とされ、身体の回復や成長ホルモン分泌が活発になる重要な時間とされてきました。

しかし2007年、睡眠医学の国際的な基準が改訂され、「ステージ3と4は区別せず、ひとまとめにして ノンレム睡眠ステージ3(N3) として扱おう」という流れになりました。

結論:ステージ3と4の違いは「実はあいまい」だった

まず結論からお伝えします。

  • ステージ4が「消えた」のではなく
  • ステージ3に統合されて、ひとつの「深睡眠」として扱われるようになった

その大きな理由は、科学的・臨床的に見て、ステージ3と4の違いがあいまいで、分けるメリットが少なかったからです。

少しだけ専門的な話をすると、ノンレム睡眠の深睡眠は「徐波睡眠(Slow Wave Sleep)」と呼ばれ、脳波上では 0.5〜2Hz のゆっくりしたデルタ波がたくさん出現することが特徴です。

旧分類では、

  • ステージ3:デルタ波の出現が 20〜50%
  • ステージ4:デルタ波の出現が 50%以上

というように、デルタ波の「量」でステージ3と4を分けようとしていました。

しかし実際に詳細に検討していくと、

  • デルタ波の割合は人によって相当変動する
  • 一晩の中でも揺れが大きい
  • 評価する検査者によっても判断がブレやすい

といった問題が明らかになりました。

つまり、「この瞬間は3?いや4?どっち?」というグレーゾーンが多く、研究や臨床で扱いにくかったのです。

科学的な理由①:脳波上の境界が「連続的」で、線引きが難しかった

ステージ3と4の違いは、ほとんど「デルタ波の割合」だけでした。しかし、実際の脳波を見てみると、3と4の間にはきれいな境目があるわけではなく、滑らかに連続しています。

たとえば、次のようなケースをイメージしてください。

  • デルタ波が40% → ステージ3
  • デルタ波が55% → ステージ4

数字としては違いますが、脳の状態としてはかなり似ています。「質的に違う」というより「量の違い」に過ぎません。

このような「連続的な現象」を無理やり区切ると、どうしても評価者によって差が出てしまいます。医学・研究の世界では、こうした“主観的な差”は大きな問題になります。

そこで、

  • ステージ3も4も、どちらも「徐波睡眠=深睡眠」である
  • わざわざ分けるよりも、ひとつにまとめた方が科学的・実務的に妥当

と判断され、統合されたのです。

科学的な理由②:臨床的な意味づけがほぼ同じだった

ステージ3と4は、どちらも以下のような「深睡眠としての役割」を持っています。

  • 成長ホルモンの分泌が活発
  • 筋肉や組織の修復・回復
  • 免疫機能のサポート
  • 記憶の固定・整理(特に宣言記憶)
  • 代謝やホルモンバランスの調整

つまり、身体の回復・脳のメンテナンスという意味で、ステージ3と4は同じ「仕事」をしている深睡眠と考えられます。

医療の現場や研究では、「ステージ3だからこうする」「ステージ4だから別の対応をする」というような、臨床上の大きな分かれ目はほとんどありませんでした。

そのため、

  • 医学的機能はほぼ一緒
  • 名前だけ違う“ほぼ同じ状態”を二重に管理しているようなもの

という状況になっていたのです。

科学的な理由③:評価の「再現性」を高めるため

医学研究では、「誰が判定しても同じ結果になるかどうか」が非常に重要です。これを再現性といいます。

旧来のステージ3・4の分類では、

  • 検査技師Aさんがつけたラベル
  • 検査技師Bさんがつけたラベル

で、ステージ3と4の境目がブレやすい、という問題がありました。

研究データとしては、

  • 同じ患者なのに、評価者によって「深睡眠量」が違って見えてしまう
  • 研究間で比較しづらい

というやっかいな状況です。

そこで、

  • ステージ3と4を統合し、「N3(深睡眠)」としてまとめる
  • 「深睡眠かどうか」の判定だけに絞ることで、評価のばらつきを減らす

という方向へ変更されました。分類をシンプルにすることで、むしろ科学的な精度を高めた形です。

科学的な理由④:AASMによる国際的な分類改訂

この変更の大きな転機になったのが、2007年の AASM(American Academy of Sleep Medicine:米国睡眠医学会) による睡眠ステージ分類の改訂です。

改訂後の分類では、ノンレム睡眠は次のように整理されました。

  • ステージN1:入眠初期の浅い眠り
  • ステージN2:全睡眠の中で最も割合の多い、中等度のノンレム睡眠
  • ステージN3:深睡眠(旧ステージ3+4が統合されたもの)
  • REM睡眠:夢を見やすく、脳が活動的な睡眠

つまり、国際的な公式ルールとして、

  • ステージ3と4は区別せず、まとめて「N3」と呼ぶ

という方針が採用された形です。

「ステージ4がなくなった=深睡眠が減った」ではない

ここでよくある誤解が、

「ステージ4がなくなったということは、深い眠りの時間が減ったということ?」

というものです。

しかし実際には、

  • 深睡眠そのものが減ったわけではない
  • 呼び方と分類のルールが変わっただけ

です。

以前は「ステージ3+ステージ4」と2つに分けてカウントしていた深睡眠が、今は「N3」とひとつにまとめてカウントされている、と考えるとイメージしやすいと思います。

なので、「睡眠の質が昔より落ちた」といった意味ではありません。むしろ、睡眠の理解がより整理され、測りやすくなったと捉えるのが正確です。

深睡眠(N3)は何をしている時間なのか?

では、その「N3=深睡眠」は、わたしたちの身体や脳にとって、どんな意味をもつのでしょうか。

  • 身体の修復・回復
    筋肉や組織の修復、成長ホルモンの分泌、免疫機能のサポートなど、いわゆる「休息」の中核を担う時間です。
  • 記憶の固定と整理
    日中に学習した内容や経験が整理され、「覚えておくべき情報」と「捨てる情報」の仕分けが行われる時間でもあります。
  • 脳のクリーニング
    近年注目されているグリンパティックシステム(脳の老廃物除去システム)は、深睡眠中に特に活発になるとされています。

作業療法士的な視点で言えば、深睡眠は、

  • 「明日もちゃんと動ける身体」をつくる時間
  • 「学んだ動作を身につけていく」時間
  • 「生活のパフォーマンスを整える」時間

と言えます。

作業療法士の視点:深睡眠が不足するとどうなる?

深睡眠(N3)の時間や質が落ちてしまうと、生活レベルでは次のような形で現れやすくなります。

  • 疲れが抜けにくい、朝起きてもだるい
  • 筋肉がこわばりやすく、動作が重たく感じる
  • 自律神経が乱れ、動悸・不安・イライラが増えやすい
  • 記憶力や集中力が落ちる
  • 日中のパフォーマンスが全体的に低下する

特にリハビリの現場では、

  • 「昨日はできていた動きが、今日はうまくいかない」
  • 「練習した動作が、なかなか定着しない」

といった場面に直結します。

これは、深睡眠の質が低いことで、学習した動作や身体の感覚が十分に整理・定着していない可能性があります。睡眠は「休む時間」であると同時に、「リハビリを生活に落とし込む時間」でもあるのです。

ノンレム睡眠の分類変更は「科学の進化」の結果

ここまでの話をまとめると、

  • ステージ4がなくなったのは、「不要だから消された」のではない
  • ステージ3と4の違いが曖昧で、科学的・実務的に分ける意味が薄かった
  • 深睡眠そのものはしっかり存在していて、「N3」として一括で扱われるようになった

ということになります。

分類の変更は、

  • むしろ睡眠の科学が前に進んだ証拠
  • 「本質に沿って整理しなおした」アップデート

と考えるとイメージしやすいと思います。

▼気になる記事3選▼

これからも睡眠の分類や理解はアップデートされていく

近年は、

  • 認知症と睡眠の関係
  • うつ病や不安障害と睡眠
  • 免疫・炎症と睡眠
  • 運動学習と睡眠(リハビリの成果との関係)

など、睡眠をめぐる研究が次々に進んでいます。

今後、さらに脳科学や生理学が進歩することで、

  • 「深睡眠の中にも、実はもっと細かい違いがある」
  • 「レム睡眠にも複数のタイプがある」

といった新しい分類や概念が出てくる可能性も十分あります。

睡眠の教科書がアップデートされるとき、「あ、また分類が変わったんだ」という視点ではなく、

「人間の眠りの理解が、また一歩深まったんだな」

という前向きな意味で受け取ってもらえると嬉しいです。

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まとめ|ステージ4は「消えた」のではなく「整理された」

  • 以前はノンレム睡眠はステージ1〜4に分けられていた
  • 現在はステージ3と4が統合され、「N3(深睡眠)」として扱われている
  • ステージ3と4の差はデルタ波の“量”の違いに過ぎず、境界が曖昧だった
  • 臨床的な意味づけもほぼ同じだったため、分けるメリットが少なかった
  • 国際的な基準(AASM)の改訂により、ステージ4は統合された
  • 深睡眠そのものが減ったわけではなく、「呼び方」と「分類方法」が整理された

そして何より大切なのは、「分類の名前」そのものではなく、

  • 日常生活の疲れがきちんと取れているか
  • 日中のパフォーマンスが発揮できているか
  • 心と身体が、翌日に向けてリセットされているか

という“生活レベルの機能”です。

睡眠オタクな作業療法士としては、

「どのステージに何分いるか」以上に、「その眠りがあなたの生活・リハビリ・仕事の質につながっているかどうか」

という視点で睡眠を一緒に見ていけたらと思っています。

「これ、自分だけじゃないかも」と感じたら、同じように悩んでいる人にもシェアしてあげてください。

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睡眠の質を高めるために知っておきたい公的エビデンス

睡眠の質は「なんとなく良い・悪い」で判断するものではなく、科学的にも明確な指標や推奨が存在します。

例えば、厚生労働省では生活習慣や環境が睡眠に与える影響について詳しく解説されており、日中の活動量や光の使い方、就寝前の行動が睡眠の質を左右することが示されています( 厚生労働省 睡眠対策ページ)。

また、最新の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、適切な睡眠時間や生活リズムの整え方が具体的に示されており、特にスマートフォンの使用や夜間の光環境が睡眠に大きな影響を与えることが明記されています( 睡眠ガイド2023(厚生労働省))。

さらに、国立精神・神経医療研究センターのガイドラインでは、不眠や日中の眠気といった睡眠障害のメカニズムや対処法についても詳しく解説されており、医学的な視点からも睡眠の重要性が示されています( 睡眠障害ガイドライン(NCNP))。

国際的にも、WHO(世界保健機関)は睡眠を健康の重要な要素と位置づけ、身体活動や生活習慣と並ぶ「健康の柱」として推奨しています( WHO 睡眠に関するガイドライン)。

このように、睡眠は個人の感覚だけでなく、国内外の研究や公的機関によってその重要性が裏付けられています。

だからこそ「なんとなく」ではなく、根拠に基づいた習慣づくりが重要になります。