
この記事を書いたのは
睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。
医療現場で延べ3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、現在は三重県・桑名市で「眠りのコツ研究所」と「Totonoe-整-」を運営しています。国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。
本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。
目次
🧠 中枢パターン生成器(CPG)とは
🔹 中枢パターン生成器(CPG)の定義
CPG(Central Pattern Generator)とは、
感覚入力がなくてもリズミカルな運動(歩行・呼吸・咀嚼・排尿・眼球運動など)を自律的に生成する神経回路群です。
- 脊髄や脳幹に存在し、皮質の命令なしでも活動可能
- 特定の神経細胞(interneuron)が相互に抑制・興奮しながらリズムを作る
- 主に歩行・呼吸・摂食・REM睡眠中の眼球運動などに関与

🌙 CPGと睡眠の関係性
🔸 睡眠時にもCPGは活動している?
はい、睡眠中にもCPGは機能しており、特に以下の2点が注目されます。
✅ 1. 呼吸のリズム生成とCPG
関連部位
- 延髄の前外側網様体
- 橋
睡眠との関係
- 睡眠中、特にノンレム睡眠中は呼吸が自動化され、大脳皮質の関与が減少。
- その状態で呼吸を担うのが、延髄のCPGネットワーク。
- レム睡眠中には呼吸リズムが不規則になるが、これもCPGの活動の一部。
➤ 睡眠中の呼吸パターンは「完全に自律神経支配」ではなく、「CPGによるリズミカルな制御」で成り立っています。
✅ 2. REM睡眠中の眼球運動とCPG
関連部位
- 橋被蓋核(Pontine tegmentum)
- 視蓋前野(Pretectum)など
どんな動きか?
- REM(Rapid Eye Movement)睡眠では、名前の通り眼球が高速で動きます。
- この運動も感覚入力ではなく、橋~中脳領域のCPGが生み出しているとされています。
- また、REM睡眠中は体の筋肉のほとんどが**抑制(筋緊張低下)**されている中で、眼球だけが活発に動くのもこの理由です。

🚶♀️ 睡眠と運動CPGの連関
🔸 睡眠中の「寝返り」とCPGの関係
- 寝返りの動作は、通常は運動皮質の活動とともに起こりますが、
- 覚醒と睡眠の狭間(中途覚醒・半覚醒)での寝返りは、意識下でなくても起きることがあります。
- こうした動作には、皮質下のCPGが関与している可能性があるとする仮説も近年浮上しています。
❗ 寝返りの頻度が極端に少ない場合、CPG機能の低下や皮質下ネットワークの障害を示唆することも。
🧬 睡眠とCPGをつなぐ「神経伝達物質」
CPGに関与する神経伝達物質と睡眠制御との関係
神経伝達物質 | CPGでの役割 | 睡眠との関連性 |
---|---|---|
グルタミン酸 | 興奮性シグナルを伝達し、リズム生成を促進 | ノンレム睡眠中に一部活性化 |
GABA | 抑制性神経伝達でCPGリズムを安定化 | 睡眠全体の調整役、特にレム睡眠で重要 |
アセチルコリン | REM睡眠中のCPG活性に関与 | REM睡眠のトリガー物質としても機能 |
セロトニン | 呼吸CPG活性を促進、姿勢制御にも関連 | セロトニン低下 → 睡眠の質低下・呼吸障害 |

関連研究と論点
Funk GD, Greer JJ. “Neural control of breathing: rhythm generation and developmental aspects.” Curr Opin Neurobiol. 2013
- 「運動リズム制御に関与するCPGが、他の身体動作に拡張的に利用される可能性」について触れており、睡眠中の身体動作も対象となり得る。
また、睡眠中の寝返りが皮質の活動が低い状態でも生じることから、皮質下のCPGや自律運動プログラムの関与が示唆されています(臨床観察的見解)。
機能 | CPG関与のエビデンス | 睡眠中の活動との関連 |
---|---|---|
歩行 | ✅(確立済) | 基本は覚醒中だが関連あり |
呼吸 | ✅(強い根拠) | ノンレム・レム中も継続 |
眼球運動(REM) | ✅(確立済) | REM睡眠で活性化 |
寝返り | ⚠️(仮説段階) | 半覚醒時の自動運動として研究対象 |

🧑⚕️ 臨床応用:CPGと睡眠の統合的リハビリ戦略
1. 睡眠呼吸障害(SAS)に対するアプローチ
- 呼吸のCPG障害も視野に入れた評価が必要。
- 自律呼吸が不安定になる理由がCPGのリズム異常にある可能性あり。
2. パーキンソン病や脳卒中後の寝返り障害
- 睡眠中の寝返り低下 → 睡眠の質の低下(中途覚醒、褥瘡リスク)
- 運動CPG系の回復や再活性化を目指した理学療法が有効。
- ヨガ・ピラティス・フロアエクササイズ等でのリズム動作の導入もCPG刺激になる。
3. 発達障害児や脳性麻痺児の睡眠と運動障害
- CPGの発達遅延が入眠困難や運動パターンの未発達に関与している可能性。
- 日中の**リズム運動(バウンス運動・トランポリンなど)**によってCPGを刺激することで、睡眠改善に寄与する研究も。

🔚 3つのまとめ
- CPGは単なる「歩行制御」の中枢ではなく、睡眠中の呼吸や眼球運動、時には寝返りにも関与するリズム生成装置。
- 睡眠とCPGの関係性を知ることで、睡眠障害の新たな評価視点や、リハビリのアプローチが生まれる可能性がある。
- 今後は「CPG × 睡眠 × リハビリ」の視点で研究・臨床展開することが重要です。
▼気になる記事3選▼
TikTokで睡眠情報発信しています
子ども自身が読んで学べる睡眠書籍
\こども睡眠テキスト/

▼睡眠オタ推し!テコリア販売しています▼
画像をクリックでShopへ

▼YouTubeを参考に講演イメージください▼


📚 参考文献
- Smith JC, Abdala AP, Koizumi H. “Neural generation of respiratory rhythm: CPGs and network properties.” Annu Rev Physiol. 2007.
- McCrea DA, Rybak IA. “Organization of mammalian locomotor rhythm and pattern generation.” Brain Res Rev. 2008.
- Peever J, Fuller PM. “The Biology of REM Sleep.” Curr Biol. 2017.
- Feldman JL, Del Negro CA. “Looking for inspiration: new perspectives on respiratory rhythm.” Nat Rev Neurosci. 2006.