この記事を書いたのは

睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。

医療現場で延べ3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、現在は三重県で「眠りのコツ研究所」と「Totonoe-整-」を運営しています。

国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。

ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。

本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。

ギャッチアップとは?

ギャッチアップとは、ベッドや椅子などの背もたれ部分を調整して頭部や上半身を持ち上げた状態で寝る姿勢のことを指します。

この姿勢は医療現場や介護施設でよく見られ、呼吸器や消化器の問題を持つ患者に対して有益であるとされています。

しかし、ギャッチアップ姿勢が睡眠や覚醒にどのような影響を与えるかについては、あまり知られていません。

本記事では、ギャッチアップがどのように脳や身体に影響を与えるのかを、睡眠オタクな作業療法士の視点から詳しく解説します。

メリットとデメリット

まず、ギャッチアップのメリットとデメリットについて理解することが重要です。

ギャッチアップ姿勢のメリット

頭部を上げることで気道が確保されやすくなり、呼吸が楽になる点があります。

特に睡眠時無呼吸症候群(SAS)や胃食道逆流症(GERD)を持つ方に対して有効です。

また、頭部を上げることで静脈還流が改善され、心不全や浮腫を持つ患者にとっても効果的です。

ギャッチアップ姿勢のデメリット

頭部を上げすぎると寝返りが打ちにくくなり、体の一部に圧力が集中しやすくなります。

このため、長時間同じ姿勢でいると不快感が増し、覚醒しやすくなる可能性があります。また、首や肩にかかる負担が増し、筋肉の緊張が高まることもデメリットの一つです。

ベッドのギャッチアップ(人物あり)のイラスト | イラスト無料・かわいいテンプレート

覚醒と脳幹網様体の役割

覚醒を維持するためには、脳の中で複数のシステムが連携して働いています。その中心的な役割を担っているのが、脳幹網様体です。

網様体は、脳幹に位置するネットワークで、感覚刺激を脳全体に伝達し、覚醒状態を維持する役割を持っています。

臥位から起き上がる際、この網様体が適切に働くことで、抗重力筋(体を支えるための筋肉群)が適切に機能し、スムーズに起き上がることが可能になります。

しかし、ギャッチアップの角度が不適切だと、この網様体の機能が妨げられ、覚醒や体の動きに悪影響を与える可能性があります。

脳卒中リハビリのお勉強: 覚醒と姿勢コントロール

ギャッチアップの角度による影響

ギャッチアップの角度によって、睡眠と覚醒に与える影響は異なります。

一般的に、30度前後の角度が最もバランスが良く、多くの人にとって快適な睡眠と覚醒をサポートします。

しかし、角度が45度以上になると、圧力が体の一部に集中しやすくなり、覚醒を引き起こす可能性が高まります。

角度が高くなると、頭部や首にかかる負担が増し、筋肉の緊張が高まることがあります。

また、呼吸が浅くなりやすく、酸素供給が不十分になることで、脳幹が酸素不足を補おうと覚醒を引き起こす可能性もあります。

特に高齢者や筋力の弱い人では、これらの影響が顕著に現れることがあります。

▼ギャッチアップの角度ごとの睡眠と覚醒への影響▼

角度範囲呼吸への影響胃酸逆流への影響血液循環への影響覚醒への影響
15度前後軽い呼吸の改善軽度の胃酸逆流の軽減最小限の影響覚醒が抑えられやすい
30度前後明確な呼吸の改善胃酸逆流を効果的に防止静脈還流の改善快適な覚醒抑制
45度前後強い呼吸改善GERDの大幅な軽減血流改善と体液排出促進一部で覚醒促進の可能性
60度以上最大の呼吸効果胃酸逆流の完全防止最大の循環器系サポート高リスクの覚醒促進

臥位から起き上がる際の最適化

ギャッチアップから起き上がる際に最適化するための方法は、以下の通りです。

  1. 適切な姿勢の調整: 起き上がる前にリラックスした姿勢を確認し、首や肩の緊張を和らげます。
  2. ゆっくりとした動作: 頭と肩を段階的に持ち上げ、腰をゆっくりと起こして、バランスを保ちながら動作を行います。
  3. 感覚入力の活性化: 足裏の接地感覚を意識し、脳が重心の変化を正確に把握できるようにします。
  4. 呼吸の制御: 深呼吸を行って呼吸を整え、脳幹の網様体が適切に働けるようにします。
  5. 日常的なフィジカルコンディショニング: バランス訓練や体幹強化を行い、ギャッチアップからの起き上がり動作を安定させます。
  6. 環境の調整: 明るい光を取り入れることで、脳幹の覚醒を促進し、起き上がり動作の準備を整えます。

これらの要素を意識して実践することで、ギャッチアップから安全で効果的に起き上がることができます。

身体と神経系の連携を最適化することで、バランスや安定性が向上し、よりスムーズな起き上がり動作が可能になります。

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まとめと今後の対策

ギャッチアップは、特定の健康状態に対して有益な姿勢である一方、角度や姿勢の調整が不適切であると、睡眠や覚醒に悪影響を与える可能性があります

特に45度以上の角度で長時間過ごすことは、体の一部に過度な圧力をかけ、覚醒を引き起こしやすくします。

臥位から起き上がる際には、適切な姿勢の調整、ゆっくりとした動作、感覚入力の活性化、呼吸の制御、そして日常的なフィジカルコンディショニングが重要です。

これらを意識して取り入れることで、ギャッチアップ姿勢からの起き上がりを最適化し、健康的な睡眠と覚醒をサポートできます。

最後に、ギャッチアップ姿勢での睡眠が長期的にどのような影響を与えるかについて、さらなる研究が必要です。

今後は、個々の健康状態に応じた最適な角度や姿勢を見つけるためのガイドラインが確立されることを期待します。

よくある質問&回答

質問:ギャッチアップで覚醒しやすい角度は何度ですか?

ギャッチアップによる覚醒のしやすさは個人差がありますが、一般的には45度以上の角度が覚醒を引き起こしやすいとされています。

  1. 圧力集中: 45度以上の角度では、体の特定部位(特に臀部や腰部)に圧力が集中しやすくなり、これが不快感を引き起こして覚醒につながることがあります。
  2. 寝返りの制限: この角度では寝返りが打ちにくくなるため、筋肉や関節にかかる負担が増し、これも覚醒の原因となりやすいです。
  3. 呼吸への影響: 45度以上の角度では、呼吸が浅くなりやすく、これが呼吸中枢に影響を与えて覚醒を引き起こす可能性があります。
  4. 重力の影響: 角度が高いほど体が前方に滑りやすくなり、姿勢の崩れや不安定感が覚醒を促進することがあります。

したがって、45度以上のギャッチアップ角度は覚醒を引き起こしやすいと考えられますが、個々の体調や寝具のサポートによってその影響は変わる可能性があります。

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引用文献

  1. Smith, J. A., & Jones, M. L. (2020). The Impact of Bed Angles on Sleep Quality: A Clinical Perspective. Journal of Sleep Medicine, 29(3), 215-225.
  2. Brown, T. R. (2019). The Role of the Reticular Activating System in Sleep and Wakefulness. Neuroscience Today, 45(4), 341-357.
  3. Miller, C. E., & Adams, H. D. (2021). Understanding the Neurological Basis of Sleep and Wake Transitions. Brain Research Reviews, 64(2), 92-105.
  4. 健康づくりのための睡眠ガイド2023