この記事を書いたのは

睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。

医療現場で延べ3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、現在は三重県で「眠りのコツ研究所」と「Totonoe-整-」を運営しています。

国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。

ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。

本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。

目次

はじめに

夜、子どもを寝かしつけて戻ると、気づけばそれぞれのスマホに没頭し、会話は最小限。

「今日も疲れたね…」のひと言を最後に、別々の布団へ。

日本性科学会の報告では、既婚カップルの半数超がセックスレス

一方でOECD比較では日本人の平均睡眠時間は最短クラス。

つまり私たちは睡眠不足セックスレスの両方にさらされやすい社会環境にいます。

ここに子育て(夜泣き・授乳・寝かしつけ)、経済的制約(教育費・住宅費・可処分時間の減少)、住環境(同室就寝・狭小住宅・音への配慮)が重なると、二人の時間と空間はさらに希少になります。

本記事は、科学的根拠生活実装をつなぎ、制約の中でも実行できる現実解を提示します。

「睡眠不足は、健康だけでなく、愛のあり方にも静かに侵食していく。」(マシュー・ウォーカー『Why We Sleep』)

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睡眠不足が性欲を奪う4つの科学的メカニズム

1)性ホルモン分泌の低下(テストステロン/エストロゲン/プロゲステロン)

入眠直後の深いノンレム睡眠は、男性のテストステロン、女性のエストロゲン/プロゲステロンが整う時間帯。

睡眠不足(とくに6時間未満)が続くと、テストステロンは10〜15%低下し、活力・自信・性欲の土台が痩せ細ります。

女性ではホルモンリズムの乱れ膣乾燥性交痛を招き、心理的回避につながります。

2)脳の報酬系(ドーパミン)感受性の低下

「楽しいからまたやりたい」を支えるのがドーパミン回路。

睡眠不足はドーパミン受容体の反応性を鈍らせ、性行為やスキンシップから得られる快情動が目減りします。

結果として「面倒」「気が乗らない」が先行しやすくなります。

3)ストレスホルモン(コルチゾール)と交感神経の過緊張

慢性睡眠不足はコルチゾールを高め、夜になっても交感神経が優位のまま。

「戦闘モード」から「リラックスモード(副交感)」への切り替えができず、性欲も睡眠欲も抑えられがちです。

4)感情の過敏化と関係摩擦(扁桃体の反応増幅)

睡眠不足では扁桃体が過剰反応し、小さな言葉や態度にもイライラしやすくなります。

摩擦はスキンシップを遠ざけ、さらに親密性の低下を招く悪循環へ。

まとめ:睡眠不足は「体の準備(ホルモン・自律神経)」と「心の準備(快情動・寛容さ)」の両方を奪い、セックスレスの強い誘因になり得ます。

「追加の1時間の睡眠が、翌日の性行動を14%増やす。」(アリアナ・ハフィントン『The Sleep Revolution』)

日本特有の背景:制約の多い生活環境

子育て:時間と体力の制約(夜泣き・授乳・寝かしつけ)

断片睡眠は深睡眠を削り、ホルモン回復を阻害。

夜の家事分担寝かしつけの交代制午睡の質の底上げで親の回復力を確保しましょう。

経済的制約:可処分時間と心理的余裕の減少

教育費・住宅費・通勤時間が積み重なると、夫婦の「関係投資(デート・外食・小旅行)」は後回しに。

低コストでも良いので“ふたり専用の15分”を日課化するのが現実解です。

住環境:同室就寝・狭小空間・音問題

  • 就寝前30分はリビングを暗めにし、会話/ハグの時間を先に作る
  • 子どもが寝入った後は「静かな作業→スキンシップ」の順で設計
  • サウンドマスキング(ホワイトノイズ)や簡易パーテーションで心理的ハードルを下げる

「愛も時間も、投資しなければ枯れてしまう。」(ゲーリー・チャップマン『愛を伝える5つの方法』)

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セックスレスによる人生の損失

セックスは単なる生殖行為ではなく、神経生理学的には「脳と身体の複合的な報酬システムの活性化」と位置づけられます。

これが失われることは、人生の質に多方面で影響します。

1. 神経伝達物質とホルモンの損失

性行為やスキンシップは、脳内でドーパミン(快感・動機付け)オキシトシン(愛着・信頼)セロトニン(安定・安心)を分泌します。

さらに、男性ではテストステロン、女性ではエストロゲンの分泌が促進されます。

セックスレス状態では、これらの分泌機会が減少し、結果として「やる気の低下」「関係性の希薄化」「気分障害リスク増大」などの損失が生じます。

2. 睡眠と神経生理の悪循環

性行為後にはプロラクチンオキシトシンが増え、副交感神経が優位になることで入眠がスムーズになります。

つまり、性生活は良質な睡眠のトリガーのひとつ。

セックスレスはこの作用を失い、逆に睡眠不足が慢性化 → ホルモン分泌低下 → 性欲減退 → さらなるセックスレス…という悪循環を作り出します。

3. ストレス耐性の低下

性的活動は脳内の視床下部-下垂体-副腎系(HPA軸)を調整し、ストレス応答を和らげます。

セックスレスになるとこの調整が働きにくく、コルチゾールが慢性的に高止まりし、結果として不安・抑うつ・易疲労性が増大します。

4. 社会的・心理的損失

心理学的研究では、性生活が安定している夫婦は、そうでない夫婦に比べて結婚満足度・幸福度が有意に高いことが繰り返し報告されています。

セックスレスは「自尊感情の低下」「パートナーとの信頼関係の希薄化」「孤独感の増大」につながりやすく、人生の主観的満足度を下げる要因となります。

5. 長期的健康への影響

長期的なセックスレスは、免疫機能の低下循環器系疾患リスクの増加とも関連が示唆されています。

週1回程度の性行為がある人は、全くない人に比べて免疫グロブリンA(IgA)が高値で、感染防御に有利であるという研究もあります。

「情熱や親密さを失うことは、ただ性生活を失うだけでなく、人生の報酬システムを一つ閉ざしてしまうことでもある。」

パートナーを性的対象として見られなくなったときの対策

ハビチュエーション(慣れ)を壊す小さな新規性

  • 見た目・香り・髪型を季節に一度は更新(“新しさ”は報酬系を刺激)
  • ライトなデート(新しいカフェ・夜の散歩・家の模様替えコーナー)

性的でないスキンシップの“土台化”

手つなぎ・肩もみ・背中合わせ呼吸など、低プレッシャー接触オキシトシンを増やし、緊張をほどく

会話テンプレ(“直接すぎない”合図)

「最近、一緒にいると落ち着く時間が減ってきたね。5分だけ、今日の“よかったこと”を交換しない?」

役割から離れる“ふたり時間”の予約

親・家事担当・稼ぎ手という役割から一歩離れる“15分の予約”

曜日固定で「スマホ非接触・照明は暖色・お茶か白湯」をルール化。

「新しさは、欲望の酸素だ。」(エステル・ペレル『愛するということ(Mating in Captivity)』)

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睡眠・ホルモン・時間制約を整えるステップ

1)就寝90分前の“デジタル断ち”

  • ブルーライト遮断(端末はナイトシフト物理的に遠ざける
  • 代替行動:湯船10〜15分/ストレッチ/読書(紙)

2)睡眠リズムの固定(週末のズラしは±60分以内)

概日リズムを守ることが、翌日のテストステロン気分安定の基盤に。

3)朝の光浴+日中の活動量

  • 起床後15〜30分の自然光(ベランダ・窓際でOK)
  • 有酸素20分+筋トレ10分(自重で可):ホルモン活性化

4)栄養(亜鉛/ビタミンD/トリプトファン)

  • 亜鉛:牡蠣・赤身肉・ナッツ
  • ビタミンD:鮭・卵黄・日光浴
  • トリプトファン:大豆・乳製品・バナナ

5)“ベッドは睡眠と性のためだけ”ルール

ベッドでのSNS・仕事・動画はNGに。

入眠連想を強化し、性の場面としても切替えやすくする。

「質の良い睡眠は、性生活の質をも押し上げる。」(アリアナ・ハフィントン『The Sleep Revolution』)

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行動計画:7日間のミニ実践プログラム例

  1. Day1:就寝90分前のスマホをやめ、湯船+ストレッチ。5分会話で「今日よかったこと」を交換。
  2. Day2:朝の光浴15分。夜は手つなぎで呼吸を合わせる。
  3. Day3:冷蔵庫を“眠れる食材”で更新(ナッツ・卵・豆腐・鮭)。
  4. Day4:寝室の照明を電球色へ。サウンドマスキング導入。
  5. Day5:有酸素20分+自重スクワット30回。夜は肩もみ3分交換
  6. Day6:「スマホのない15分デート」(家の前を散歩でも可)。
  7. Day7:一週間の振り返り。来週も続ける1つを選んでカレンダーに予約。

▼気になる記事3選▼

セルフチェック(自己評価表)

各項目に当てはまるものへチェックし、3つ以上で要対策。

  • 平日の平均睡眠が6.5時間未満
  • 入眠前30分のスマホが習慣化
  • スキンシップ(手つなぎ・ハグ)が週2回未満
  • 「面倒」「気が乗らない」が先に立つ
  • 子どもと同室就寝で気配・音が気になる
  • 家計や将来への不安が強い

チェックが多いほど、睡眠・ホルモン・時間の整えと、新規性+非性的スキンシップが効きます。

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FAQ(よくある質問)

Q1. 睡眠時間を増やせない時は何から始めればいいですか?

睡眠時間を確保できないときは、まず「入眠前90分」の過ごし方を見直しましょう。

スマホやPCの画面を避け、湯船に浸かる・ストレッチをする・5分間の夫婦会話を取り入れるだけでも深部体温が下がり、メラトニン分泌が促進されます。

これにより、短時間でも**深いノンレム睡眠(性ホルモン分泌のゴールデンタイム)**が得やすくなり、セックスレス改善の土台をつくれます。

Q2. 子どもと同室でプライバシーがない場合、どう工夫すればいいですか?

日本の住宅事情では、子どもと同室で寝ざるを得ない家庭も多いです。その場合は「夜の儀式」を設計することが有効です。

例えば、リビングの照明を落として落ち着いた雰囲気を作り、夫婦で短い会話→軽いスキンシップという流れをルーティン化しましょう。

さらに、ホワイトノイズ(扇風機や音アプリ)で環境音を和らげたり、簡易パーテーションで心理的な境界を作ることで、性的な安心感と空間の切り替えが可能になります。

Q3. 経済的に余裕がなく、デートや旅行に行けません。どうしたら良いですか?

セックスレス改善に必ずしも高額なデートや旅行は必要ありません。

むしろ、日常の中で「目線・言葉・手」を使ったコミュニケーションが効果的です。

例えばですが

  • 5分会話:「今日一番よかったこと」を交換
  • 手つなぎ散歩:近所を10分歩くだけでオキシトシンが増える
  • 白湯やお茶の時間を夫婦だけで楽しむ

経済的な負担がなくても、習慣化すれば関係の安心感が回復し、自然と性欲の再燃につながります。

Q4. パートナーを性的対象として見られない/見られたくない気分のときは?

誰しも「その気になれない日」があります。そこで役立つのが合図の共有です。

「今日は会話だけにしよう」「触れるだけね」といったシグナルをあらかじめ話し合っておくと、相手へのプレッシャーが減ります。

段階的にスキンシップを積み重ねることで、無理なく性欲のスイッチを再起動できる環境が整います。

Q5. 睡眠や関係性の改善はどのくらいで効果を感じられますか?

個人差はありますが、まずは7〜14日間の継続で「入眠のしやすさ」や「感情の安定」を実感する人が多いです。

さらに2〜6週間の積み重ねで「性欲の回復」「スキンシップの自然な増加」が見られ、セックスレスの改善につながりやすくなります。

大切なのは「続けられる小さな習慣」を一つずつ取り入れることです。

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参考文献・推奨書籍

  • Walker, M. 『Why We Sleep』— 睡眠と感情・健康・関係性の包括的解説。
  • Huffington, A. 『The Sleep Revolution』— 「追加の1時間の睡眠」示唆、睡眠×生産性×親密性。
  • Perel, E. 『Mating in Captivity(愛するということ)』— 親密さと欲望の両立に関する名著。
  • Chapman, G. 『The 5 Love Languages(愛を伝える5つの方法)』— 投資としての愛情表現。
  • Leproult, R., Van Cauter, E. (JAMA, 2011) — 睡眠制限とテストステロン低下。