
この記事を書いたのは
睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。
医療現場で延べ3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、現在は三重県で「眠りのコツ研究所」と「Totonoe-整-」を運営しています。
国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。
ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。
本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。
夏の夜、「プ〜ン……」という蚊の羽音ほど睡眠を邪魔するものはありません。
つい枕元で蚊取り線香に火をつけたくなりますが、その煙があなたの熟睡を奪うかもしれません。

目次
蚊取り線香とは?その仕組みと種類
蚊取り線香とは、殺虫成分を含んだ渦巻き状の線香を燃やすことで、蚊を忌避・駆除する昔ながらの虫除けアイテムです。
主に使用されている有効成分は、 ピレスロイド系殺虫剤(アレスリンやメトフルトリンなど)で、昆虫の神経をまひさせる作用があります。
火を点けると、線香はゆっくりと燃焼しながら有効成分を含む煙を放出します。
これが空気中に拡散することで、蚊の接近・吸血行動を抑制する仕組みです。

主な蚊取り線香のタイプ
- 伝統型コイル式:渦巻き状で着火後約6〜8時間燃焼。煙と匂いが強い。
- 無煙タイプ:煙の量を抑えたもの。視認できる白煙は少ないが、超微粒子は残る。
- 電気式リキッド型:煙ゼロで安全性が高いとされ、現在主流になりつつある。
日本では1890年代に金鳥が製造を開始し、いまなお「夏の風物詩」として愛用されています。
しかし近年では、煙に含まれる健康リスクが見直されつつあります。

蚊取り線香が放つPM2.5はタバコ75〜137本分
マレーシアで行われた実験では、蚊取り線香1巻が放出するPM2.5量はタバコ75〜137本分に匹敵すると報告されています。
さらにLiu らの研究(2003)は、同じ1巻でホルムアルデヒド51本分も放出されると指摘。
それだけで十分インパクトがありますが、実はベンゼンなどの発がん性物質も検出されていますChan 2005。

睡眠が浅くなる3つのメカニズム
① PM2.5が誘発する微小覚醒
超微粒子は気道粘膜を刺激し、脳は「咳・くしゃみ準備状態」を維持。
結果としてノンレム深睡眠(ステージ3–4)が短縮されます。
② 酸化ストレスによる交感神経上昇
PM2.5は血中に入り込み、炎症サイトカインを放出。
心拍・血圧が高止まりし、睡眠中も身体は“戦闘モード”のままLiu 2003。
③ 匂い刺激でメラトニン減少
煙臭は大脳辺縁系を刺激して覚醒ドライブを強め、入眠潜時が延長。
なかなか眠れないってことです。
空気汚染地域で睡眠効率が低下する現象と同じロジックです。
長期的リスクも無視できない
- 小児ぜんそく:室内コイル煙曝露はぜんそくリスクを1.7倍に増加
- 慢性気管支炎・COPDリスク上昇
- 循環器疾患:血管内皮障害による動脈硬化促進

“煙ゼロ”で蚊を防ぐ5つの快眠対策
1. 電気式リキッド/ファン式
ピレスロイドを低濃度で気化させる方式。
WHO報告書によると、適切使用下で慢性毒性リスクは「極めて低い」と評価されています。
2. 高密度網戸+隙間テープ
1 mm以下メッシュの網戸に、扉・窓枠の隙間をテープで塞ぐだけで侵入率を体感70〜80%カット。だそうです。
3. 扇風機やサーキュレーターの気流
蚊は安定飛行に0.25 m/s以下の静穏を好みます。
室内気流0.36 m/sで侵入数が有意に減少したデータも。
私も実際によく使います。
4. 精油ディフューザー(シトロネラ・レモングラスなど)
就寝30分前に20分稼働→就寝時OFF。
残留成分だけで忌避率60〜80%と報告。
アロマは私もよく使います!オススメです。
5. 蚊帳+PM2.5対応空気清浄機
物理バリア99%+微粒子除去。
温湿度の均一化で深睡眠をサポートする“究極コンボ”。

まとめ:香りより“深い眠り”を選ぼう
✔ 蚊取り線香1巻 = タバコ75〜137本分のPM2.5
✔ 微粒子とVOCが微小覚醒・浅睡眠・翌朝のだるさを招く
✔ 電気式リキッド・網戸強化・微風・精油・蚊帳+空気清浄機で“煙ゼロ”対策
✔ 深い眠りは免疫・集中力・体内時計のベース
「蚊を取るか、睡眠を取るか」──
いいえ、どちらも取れるのが“煙ゼロ蚊よけ術”。
いかがでしたでしょうか?
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▼気になる記事5選▼
よくある質問
Q1. 子ども部屋で蚊取り線香を焚くと危ない?
はい、特に乳幼児の部屋では使用を避けるべきです。理由は3つあります。
1つ目は、乳幼児は体重あたりの呼吸量(換気量)が成人の約1.5倍と高いため、空気中の有害物質をより多く取り込んでしまうこと(Chan et al., 2005)。つまり同じ空間でも、子どもの方がPM2.5やベンゼンの影響を強く受けやすいのです。
2つ目は、子どもの気道が狭く、刺激に敏感であること。蚊取り線香の煙に含まれるホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物)は、粘膜を刺激しやすく、咳・喘息様症状・中耳炎の悪化リスクを高めます。
3つ目は、脳神経発達が進行中である点。特にPM2.5は鼻腔を経て嗅球を通じて脳へ直接達する経路があり、学童期の睡眠障害や注意力低下との関連も指摘されています(Hewitt et al., 2022)。
WHOも「0〜5歳児には燃焼式殺虫製品の室内使用を避けるべき」とガイドラインで警告しています。
Q2. “無煙”表記の蚊取り線香なら安全?
“無煙”という表記に安心してはいけません。
“無煙”とはあくまで目に見える白煙(可視煙)が少ないだけで、PM2.5・超微粒子・VOCの放出がゼロになるわけではありません。実際、「無煙」と書かれた商品でも、PM2.5やベンゼン・ホルムアルデヒドの検出例があります(Chen et al., 2020)。
また、無臭タイプや香り控えめタイプであっても、燃焼により酸化ストレスを引き起こす物質(アクロレインやナフタレンなど)は生成される可能性があります。
したがって、「煙が見えないから大丈夫」と思わず、就寝時は使用を避ける、使用するなら換気と空気清浄機を併用することが必須です。特に小児・高齢者・呼吸器疾患を持つ方のいる家庭では、避けるに越したことはありません。
Q3. 電気式リキッドを毎晩使っても大丈夫?
基本的には使用方法を守れば、電気式リキッドは安全性が高いと評価されています。
主成分であるピレスロイド系殺虫剤(メトフルトリンやトランスフルトリンなど)は、ヒトでは代謝が早く、半減期は数時間以内。体内で速やかに分解・排出されるため、慢性毒性や蓄積性はほとんどありません。
WHOや米国EPA(環境保護庁)も、家庭用殺虫剤として適切濃度で使用する限り、発がん性・神経毒性リスクは極めて低いとしています(WHO, 2005; EPA, 2019)。
ただし注意点として:
- 使用空間の広さと換気を守る
- 就寝直前に短時間(30分程度)で切るタイマー機能を活用
- 小動物や敏感な人がいる部屋では使用を控える
といった配慮が必要です。
また、製品によっては微量の香料や溶剤が含まれるため、「無臭タイプ」や「天然精油ベース」など、なるべく刺激の少ない製品を選ぶことをおすすめします。
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