プレゼンティーズムと睡眠の関係|出勤しているのに生産性が下がる“見えない損失”を作業療法士が解説

この記事を書いたのは

睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。

医療現場で延3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、「動きと休息のすゝめ」をベースに、現在は三重県で「Totonoe-整-」を運営しています。

国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。

ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。

本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。

こんなこと、職場で起きていませんか?

社員は出勤している。

遅刻もしていない。
会議にも出ている。
パソコンの前にも座っている。

でも、なぜか仕事が進まない。

以前よりミスが増えた。
報告が遅くなった。
会議で意見が出ない。
午後になると明らかに集中力が落ちる。
メールの返信が雑になった。
顧客対応に余裕がない。
チーム全体の空気が少し重たい。

経営者や管理職の方なら、一度はこう感じたことがあるかもしれません。

「人はいるのに、生産性が上がらない」
「休んでいるわけではないのに、仕事の質が落ちている」
「なんとなく職場全体のパフォーマンスが鈍い」

この“なんとなく”を放置してはいけません。

なぜなら、そこにはプレゼンティーズムが隠れている可能性があるからです。

プレゼンティーズムとは、簡単にいうと、出勤しているにもかかわらず、心身の不調によって本来のパフォーマンスを発揮できていない状態です。

欠勤ではありません。
休職でもありません。
だから勤怠データだけでは見えにくい

でも、仕事の質は確実に落ちている。

そして、このプレゼンティーズムの大きな要因のひとつが、睡眠です。

ここで大切なのは、睡眠を「眠いか眠くないか」だけで見ないことです。

これ大事ですよー!

睡眠不足、不眠、睡眠の質の低下、睡眠リズムの乱れ、日中の眠気、寝ても疲れが取れない状態。

これらは、集中力、判断力、感情コントロール、ミス、コミュニケーション、チームの雰囲気にまで影響します。

睡眠の問題は、個人の体調管理だけではありません。企業にとっては、生産性の問題です。

私は作業療法士として、身体機能、生活リズム、睡眠、働く力を見てきました。

その視点からはっきり言えるのは、これです。

睡眠不足は、社員を休ませる前に、出勤中の働く力を奪っていきます

これが、睡眠とプレゼンティーズムの本質というか、怖いところですよね。

プレゼンティーズムとは?

プレゼンティーズムは、健康経営の分野でよく使われる言葉。

一般的には、従業員が出勤しているものの、健康上の問題によって仕事の生産性が低下している状態を指します。

一方、欠勤による損失はアブセンティーズムと呼ばれます。

アブセンティーズムは見えやすいです。
休んでいるからです。

でも、プレゼンティーズムは見えにくい

なぜなら、本人は職場にいるからです。

席に座っている。
会議に参加している。
パソコンを操作している。
電話にも出ている。

けれど、頭が回っていない。
判断が鈍い。
集中が続かない。
痛みや疲労を抱えている。
感情が安定しない。
本来の力を出せていない。

これがプレゼンティーズムです。

引用:経済産業省「健康経営オフィスレポート」

プレゼンティーズムとは、欠勤には至っておらず、勤怠管理上は表に出てこないが、「健康問題が理由で生産性が低下している状態」を指すと説明されています。

出典:経済産業省 健康経営オフィスレポート
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf

ここで間違えてはいけないのは、プレゼンティーズムを「やる気の問題」として片づけないことです。

やる気がないのではありません。

働けるコンディションが整っていない可能性があります。

そして、その土台に睡眠の問題があることは、決して珍しくないはずなんです!

なぜ睡眠がプレゼンティーズムに関係するのか?

睡眠は、単なる休息ではありません!

翌日の脳と身体を仕事で使える状態に戻す、かなり重要な回復プロセスです。

ここを甘く見ている人が多いです。

「少し寝不足だけど、仕事はできる」
「眠いけど、気合いでなんとかなる」
「忙しい時期だから、睡眠を削るのは仕方ない」

たしかに、1日くらいなら乗り切れるかもしれません。

でも、問題はそれが続くことです。

毎日6時間未満の睡眠。
夜遅くまでスマホや仕事。
休日に寝だめ。
月曜からまた疲れたまま出勤。
午後はカフェインでごまかす。

この状態が続くと、本人は「普通」と思っていても、脳と身体は確実に回復不足になります。

そして、回復不足のまま働くと、まず落ちるのは“仕事の質”です

集中力が落ちる。
判断力が落ちる。
ミスが増える。
感情が乱れやすくなる。
身体の痛みが強くなる。
人との関わりが雑になる。

これが睡眠由来のプレゼンティーズムです。

引用:睡眠介入とプレゼンティーズムに関するシステマティックレビュー

Takanoらのシステマティックレビューでは、“Sleep problems interfere with work performance.”、つまり睡眠問題は仕事のパフォーマンスを妨げると述べられています。

出典:Takano Y, et al. A systematic review of the effect of sleep interventions on presenteeism. 2021.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8597302/

つまり、睡眠不足は「眠い」という問題だけではありません。

仕事のパフォーマンスそのものを下げる問題なのです!!

睡眠不足は、欠勤より先に“仕事の質”を落とす

企業では、社員の健康状態を見るときに、欠勤日数や休職者数を重視しがちです。

もちろん、それは大切です。

ただし、睡眠の問題は、欠勤よりも前に現れます

いきなり会社を休むわけではありません。

まずは、出勤したまま仕事の質が落ちます。

朝から頭が重い。
午前中の立ち上がりが遅い。
メールの文章が雑になる。
会議で集中できない。
午後に強い眠気がくる。
些細なことでイライラする。
確認ミスが増える。
同じ作業に時間がかかる。

この状態でも、勤怠上は「出勤」です。

だから企業側は気づきにくい。

でも、実際には生産性が落ちています。

ここがプレゼンティーズムの怖いところです。

休んでいないから大丈夫。出勤しているから問題ない。この考え方が、見えない損失を大きくします。

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睡眠不足で集中力が落ちる

睡眠不足の影響で最もわかりやすいのは、集中力の低下です。

資料を読んでいるのに頭に入らない。
同じ文章を何度も読み返す。
会議中に話が入ってこない。
作業を始めても、すぐ別のことが気になる。
デスクにいるのに、ぼーっとしてしまう。

これは気合いが足りないからではありません。

睡眠が不足すると、脳は注意を持続しにくくなります。

特に、確認作業、データ入力、運転、会議、資料作成、単調な業務では影響が出やすいです。

仕事における集中力は、精神論ではなく、脳のコンディションに左右されます

ここは、職場でかなり大切です。

「集中しなさい」と言っても、脳が回復していなければ集中できません。

眠れていない人に集中力を求めるのは、充電が切れかけたスマホに重たい動画編集をさせるようなものです。

動いてはいる。
でも、処理速度は落ちている。
途中でフリーズする。
ミスも増える。

人間も同じです。

睡眠不足で判断力が落ちる

仕事では、毎日たくさんの判断をしています。

何を優先するか。
誰に相談するか。
どのタイミングで報告するか。
この案件を進めるか、止めるか。
部下にどんな言葉をかけるか。
顧客にどう説明するか。

こうした判断には、前頭前野の働きが関係します。

前頭前野は、計画、判断、感情の抑制、優先順位づけ、衝動のコントロールなどに関わる領域です。

簡単に言えば、仕事をするうえでかなり重要な脳の司令塔です。

睡眠不足になると、この前頭前野の働きが鈍りやすくなります。

すると、判断が遅くなる。
短絡的になる。
目先の楽な選択に流れる。
確認を飛ばす。
相談すべき場面で抱え込む。
冷静に対応すべき場面で感情的になる。

こういうことが起こります。

睡眠不足は作業スピードだけでなく、意思決定の質を落とします。

これは経営者や管理職ほど、重く受け止めるべきです。

なぜなら、判断の質が落ちる人ほど、影響範囲が大きいからです。

管理職が寝不足だと、部下への伝え方が雑になります。
経営者が寝不足だと、重要な判断が短絡的になります。
医療・介護職が寝不足だと、安全確認の質が落ちます。

睡眠不足は、個人の問題で終わりません。

立場が上がるほど、周囲への影響も大きくなるのです。

睡眠不足でミスが増える

睡眠不足が続くと、ミスが増えます。

誤字脱字。
数字の入力ミス。
連絡漏れ。
確認漏れ。
報告忘れ。
ダブルチェックの抜け。
手順の飛ばし。
判断ミス。

これらは、どの職場でも起こり得ます。

特に、医療、介護、製造、建設、運送、保育、教育などでは、睡眠不足は安全面にも関わります。

眠気が強い状態では、注意の瞬断が起こりやすくなります。

完全に寝ているわけではありません。
でも、一瞬だけ脳がオフになる。

この一瞬が、事故や重大なミスにつながることがあります。

だから私は、職場でミスが増えたときに、本人の性格や能力だけで判断するのは危険だと思っています。

「確認が甘い」
「責任感がない」
「注意力がない」

そう決めつける前に、睡眠を見てください。

最近眠れているのか。
残業が続いていないか。
夜中に何度も起きていないか。
日中の眠気が強くないか。
休日に寝だめしていないか。
いびきや無呼吸はないか。

睡眠を見ないまま指導しても、根本改善にはなりません。

睡眠不足で感情コントロールが落ちる

睡眠不足は、感情にも影響します。

寝不足の日に、いつもよりイライラする。
小さな指摘に過敏になる。
相手の言葉を悪く受け取る。
部下にきつく言ってしまう。
家族に当たってしまう。

こういう経験は、多くの人にあるはずです。

これは、単に性格が悪くなったわけではありません。

睡眠が不足すると、情動反応が強くなりやすく、冷静にブレーキをかける力が弱くなります。

職場で考えると、これはかなり大きな問題です。

なぜなら、感情の乱れはチームに伝染するからです。

寝不足の上司がイライラする。
部下が報告しづらくなる。
情報共有が遅れる。
ミスが増える。
さらに上司が怒る。
チームの空気が悪くなる。

この悪循環は、現場でよく起こります。

プレゼンティーズムは、個人の作業効率だけの話ではありません。

睡眠不足によって感情コントロールが落ちると、チームの心理的安全性にも影響します。

つまり、睡眠は人間関係の土台でもあります。

睡眠不足で痛みや身体不調が強くなる

ここは作業療法士として、特に伝えたいところです。

睡眠とプレゼンティーズムを語るとき、多くの人は脳の話だけに寄りがちです。

集中力。
判断力。
眠気。
メンタル。

もちろん、それも大事です。

でも、現場では身体の問題もかなり大きいです。

首こり。
肩こり。
腰痛。
頭痛。
眼精疲労。
胃腸不調。
倦怠感。

こうした不調を抱えながら働くと、当然パフォーマンスは落ちます。

しかも睡眠不足は、痛みの感じ方にも影響します。

眠れていない。
身体が回復しない。
筋緊張が抜けない。
朝から首や腰が痛い。
仕事中の姿勢が崩れる。
さらに疲れる。
夜も眠りにくい。

この悪循環に入ると、仕事中の集中力も落ちます。

腰が痛い人は、仕事に集中しようとしても、意識の一部を常に痛みに奪われています。

肩こりが強い人は、画面を見るだけで疲れます。

頭痛がある人は、会議の内容を理解するだけでもエネルギーを使います。

だから、プレゼンティーズムを改善したいなら、睡眠だけでなく、身体も見る必要があります。

睡眠、姿勢、痛み、呼吸、寝具、生活リズム、働き方。ここをつなげて見ることが、本当の意味での健康経営です。

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プレゼンティーズムを悪化させる睡眠問題

睡眠といっても、見るべきポイントはいくつかあります。

「何時間寝ていますか?」だけでは不十分です。

プレゼンティーズムを考えるなら、次の5つを分けて見てください。

  1. 睡眠時間
  2. 睡眠の質
  3. 不眠症状
  4. 日中の眠気
  5. 睡眠リズム

睡眠時間の不足

まずは睡眠時間です。

平日の睡眠時間が短い人は、仕事中の眠気や集中力低下が起こりやすくなります。

特に問題なのは、平日は短時間睡眠で、休日に寝だめするパターンです。

「平日は忙しいから仕方ない」
「土日に寝れば大丈夫」
「自分は短時間睡眠でもいける」

そう思っている人は多いです。

でも、仕事のパフォーマンスという視点では、この考え方はかなり危険です。

なぜなら、平日の睡眠不足は、その日の仕事の質をすでに落としているからです。

引用:勤務日と休日の睡眠時間に関する研究

Takanoらの2024年の研究では、“Sleep loss on workdays cannot be compensated for with longer sleep on days off.” と結論づけられています。

つまり、勤務日の睡眠不足は、休日に長く寝るだけでは補いきれない可能性があります。

出典:Takano Y, et al. Presenteeism and sleep duration on workdays and days off. 2024.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38682567/

金曜日まで睡眠不足で働いて、土日に長く寝る。

たしかに少し回復するかもしれません。

でも、月曜から金曜までの判断ミス、集中力低下、感情の乱れ、確認漏れは、すでに起きています。

寝だめは“あとからの返済”であって、“平日の損失”をなかったことにはできません。

睡眠は貯金というより、毎日のメンテナンスです。

毎日、脳と身体を仕事に使える状態へ戻す。

この感覚が大切です。

睡眠の質の低下

次に、睡眠の質です。

睡眠時間は取れている。
でも、朝から疲れている。

このタイプも非常に多いです。

夜中に何度も目が覚める。
眠りが浅い。
夢が多い。
朝起きたときに疲れが残っている。
寝たはずなのに体が重い。
午前中から眠い。

このような状態では、睡眠時間だけを見ても問題はわかりません。

ここで大切なのが、回復感です。

つまり、寝たあとに「回復した感じ」があるかどうか。

仕事で成果を出すには、単に布団に入っていた時間ではなく、起きたときに脳と身体がどれだけ回復しているかが重要です。

企業の睡眠支援でも、「7時間寝ましょう」だけでは弱いです。

朝の回復感。
日中の眠気。
午後の集中力。
夜間覚醒。
睡眠満足度。

ここまで見る必要があります。

引用:日本人労働者を対象にした研究

Itaniらの研究では、日本の6企業に勤務する2,375人を対象に、睡眠時間、睡眠の質、睡眠リズムとプレゼンティーズムの関係が検討されています。

出典:Itani O, et al. A cross-sectional epidemiological study of the relationship between sleep and presenteeism in workers.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10897641/

不眠症状

不眠症状も、プレゼンティーズムと深く関係します。

不眠には主に4つのタイプがあります。

  • 寝つきが悪い入眠困難
  • 夜中に目が覚める中途覚醒
  • 朝早く目が覚める早朝覚醒
  • 眠ったのに回復感がない非回復感

不眠があると、夜だけでなく日中にも影響します。

眠れない。
疲れが取れない。
日中眠い。
集中できない。
ミスが増える。
気分が落ちる。
仕事の効率が下がる。

ここで大切なのは、不眠を「そのうち治る」と放置しないことです。

不眠は本人が我慢しやすい問題です。

「忙しいから仕方ない」
「年齢のせい」
「ストレスだから仕方ない」
「昔から寝つきが悪い」

そうやって放置されやすい。

でも、不眠が続くと、プレゼンティーズムだけでなく、メンタル不調にもつながる可能性があります。

企業としては、不眠を早めに拾い上げる仕組みが必要です。

日中の眠気

日中の眠気は、かなり重要なサインです。

午前中から眠い。
昼食後に強烈に眠い。
会議中に意識が飛ぶ。
運転中に眠気がある。
デスクワーク中に何度もぼーっとする。
休日に長時間寝てしまう。

これは、単なる気合い不足ではありません。

睡眠時間の不足、睡眠の質の低下、睡眠リズムの乱れ、不眠、睡眠時無呼吸症候群などが背景にある可能性があります。

特に、いびき、無呼吸の指摘、起床時頭痛、血圧高め、肥満傾向、夜間頻尿、強い日中の眠気がある場合は注意が必要です。

この場合、生活習慣のアドバイスだけで済ませてはいけません。

睡眠時無呼吸症候群などの可能性もあるため、医療機関への相談が必要です。

企業研修で睡眠を扱うなら、「医療につなぐべきサイン」を伝えることも大切です。

睡眠リズムの乱れ

睡眠リズムの乱れも、プレゼンティーズムに関係します。

平日は早起き。
休日は昼まで寝る。
月曜の朝がつらい。
夜型になっている。
寝る時間と起きる時間が毎日バラバラ。

このような状態では、体内時計が乱れやすくなります。

睡眠は、単に長く寝ればよいわけではありません。

いつ寝るか。
いつ起きるか。
朝に光を浴びているか。
休日にリズムを崩しすぎていないか。

ここも重要です。

特に現代人は、夜に明るい光を浴びすぎています。

スマホ。
パソコン。
テレビ。
夜間の仕事連絡。
SNS。
動画視聴。

これらによって、脳が夜になっても覚醒モードから抜けにくくなります。

その結果、寝つきが悪くなる。
眠りが浅くなる。
朝起きられない。
日中眠くなる。

こうして、仕事中のパフォーマンスが下がっていきます。

睡眠負債は、気づかないうちに仕事を重くする

睡眠負債とは、日々の睡眠不足が借金のように積み重なった状態です。

ここで怖いのは、本人が慣れてしまうことです。

毎日5〜6時間睡眠。
朝は眠いけど、なんとか起きる。
午前中はエンジンがかからない。
午後はカフェインで乗り切る。
休日に長く寝る。
また月曜から同じ生活。

これが続くと、「自分はこういうものだ」と思ってしまいます。

でも、脳と身体は確実に回復不足です。

睡眠負債は、急に倒れる前に、日々の仕事を少しずつ重くします。

資料作成に時間がかかる。
返事が遅くなる。
ミスが増える。
会議が苦痛になる。
新しいアイデアが出にくくなる。
人と話すのが面倒になる。

これは本人の能力が落ちたのではなく、回復不足で能力が出せていない状態です。

ここを見誤ると、本人も会社も苦しくなります。

プレゼンティーズムは“やる気”ではなく“回復不足”で見る

職場で生産性が落ちると、ついこう考えがちです。

やる気がない。
集中力がない。
責任感がない。
仕事が遅い。
メンタルが弱い。

でも、本当にそうでしょうか。

もしかすると、その人は単に回復できていないのかもしれません。

夜眠れていない。
寝ても疲れが取れていない。
朝から体が重い。
頭が働いていない。
痛みを抱えている。
不安で眠りが浅い。
休日も回復しきれていない。

この状態で高いパフォーマンスを求めるのは、かなり無理があります。

もちろん、仕事への姿勢やスキルの問題がないとは言いません。

でも、睡眠の問題を見ないまま「本人の努力不足」と決めつけるのは、あまりにも浅いです。

プレゼンティーズム対策の本質は、社員にもっと頑張らせることではありません。本来の力を発揮できる状態に戻すことです。

その中心に、睡眠があります。

企業で睡眠問題を見つけるチェックポイント

企業や管理職が睡眠由来のプレゼンティーズムを見つけるには、難しい検査よりも、まず現場のサインを見ることが大切です。

次のような変化がある場合は、睡眠問題が隠れている可能性があります。

  • 朝の立ち上がりが遅い
  • 午前中から眠そうにしている
  • 会議中にぼーっとしている
  • 午後にパフォーマンスが落ちる
  • 以前よりミスが増えた
  • 報告や相談が遅くなった
  • イライラしやすくなった
  • 表情が暗い
  • 肩こりや腰痛をよく訴える
  • 休日明けに疲れている
  • カフェインやエナジードリンクが増えている
  • 残業が続いている
  • 寝ても疲れが取れないと言っている

ただし、ここで大切なことがあります。

睡眠の問題を責めないことです。

「ちゃんと寝なさい」
「生活習慣が悪い」
「自己管理ができていない」

この言い方では、本人は追い詰められます。

睡眠は、本人の努力だけで整うものではありません。

業務量。
残業。
通勤時間。
家庭環境。
ストレス。
夜間連絡。
職場の人間関係。
身体の痛み。
寝室環境。

いろいろな要因が絡みます。

睡眠は責任論ではなく、パフォーマンスを支える回復資源として扱うべきです。

企業で使える睡眠チェック項目

健康経営や企業研修で使うなら、次のような質問が実用的です。

  • 最近、寝つきに30分以上かかることが多いですか?
  • 夜中に何度も目が覚めますか?
  • 朝起きたとき、疲れが残っていますか?
  • 午前中から眠気がありますか?
  • 昼食後に強い眠気がありますか?
  • 休日に平日より2時間以上長く寝ていますか?
  • 仕事中に集中が続かないことがありますか?
  • 以前よりミスが増えたと感じますか?
  • イライラしやすくなったと感じますか?
  • 肩こり、腰痛、頭痛が仕事に影響していますか?
  • いびきや無呼吸を指摘されたことがありますか?
  • 運転中や会議中に眠気を感じることがありますか?

これは診断ではありません。

でも、睡眠由来のプレゼンティーズムを見つける入口になります。

特に、強い日中の眠気、いびき、無呼吸の指摘、起床時頭痛、高血圧、肥満傾向、夜間頻尿がある場合は、睡眠時無呼吸症候群なども考える必要があります。

この場合は、自己流の睡眠改善ではなく、医療機関への相談が大切です。

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睡眠改善はプレゼンティーズムを改善できるのか?

ここは誠実に言います。

睡眠改善をすれば、必ず売上が上がる。

ここまでは言い切れません。

企業の生産性には、業務設計、人間関係、マネジメント、評価制度、労働時間、組織文化、教育、採用、ツールなど、さまざまな要因が関係するからです。

でも、睡眠問題が仕事のパフォーマンスに関係することは、複数の研究で検討されています。

引用:睡眠介入とプレゼンティーズムに関するレビュー

Takanoらのレビューでは、CBT-I、つまり不眠症の認知行動療法が、睡眠問題とプレゼンティーズムを持つ労働者に応用できる可能性が示されています。

出典:Takano Y, et al. A systematic review of the effect of sleep interventions on presenteeism. 2021.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34789296/

つまり、睡眠改善は魔法ではありません。

でも、プレゼンティーズムを下げるための現実的な打ち手のひとつです。

特に、不眠、睡眠不足、日中の眠気、睡眠リズムの乱れがある職場では、睡眠支援はかなり優先度の高い健康経営施策になります。

健康経営で睡眠に取り組むべき理由

健康経営というと、運動、食事、メンタルヘルス、禁煙、健診受診などがよく挙げられます。

もちろん、それらも重要です。

ただ、睡眠は少し特殊です。

なぜなら、睡眠はすべての土台だからです。

睡眠不足になると、運動する気力が落ちます。
食事を整える判断力が落ちます。
ストレス耐性が落ちます。
メンタルが不安定になります。
痛みを感じやすくなります。
人間関係の摩擦が増えます。
仕事のミスが増えます。

つまり、睡眠が崩れると、他の健康施策も機能しにくくなります。

運動しましょう。
食事を整えましょう。
ストレスを減らしましょう。

これらは正しいです。

でも、睡眠不足の人にそれを言っても、実行するエネルギーが残っていないことがあります。

だから、健康経営で睡眠を扱う価値は大きいのです。

睡眠改善は、単なる福利厚生ではありません。社員の回復力を高め、仕事中のパフォーマンス低下を防ぐための人的資本投資です。

企業ができる睡眠改善策

では、企業は何から始めればよいのでしょうか。

現実的には、次の5つです。

1. 睡眠リテラシー研修を行う

まず必要なのは、睡眠リテラシーです。

多くの人は、睡眠が大事だとは知っています。

でも、睡眠が仕事の何に影響するのかまでは理解していません。

大切なのは、睡眠不足が仕事にどう影響するかを具体的に伝えることです。

睡眠不足は集中力を落とす。
判断力を落とす。
感情コントロールを弱める。
ミスを増やす。
日中の眠気を増やす。
痛みや疲労感を強める。
チームの空気にも影響する。

ここまで伝える必要があります。

特にビジネスパーソンには、こう伝えるとよいです。

睡眠は休息ではありません。翌日の意思決定力をつくる時間です。

この視点に変わると、睡眠は健康の話から仕事の戦略に変わります。

2. 勤務間インターバルを見直す

睡眠を改善するには、本人の努力だけでは限界があります。

帰宅が遅い。
通勤が長い。
残業が多い。
翌朝が早い。
夜に仕事の連絡が来る。

この状態で「早く寝ましょう」と言っても、現実的ではありません。

睡眠を守るには、働き方の設計も必要です。

勤務終了から次の勤務開始までの時間。
残業時間。
夜間連絡のルール。
シフト設計。
通勤負担。
会議時間。

これらを見直すことが、睡眠由来のプレゼンティーズム対策になります。

特に夜の仕事連絡は、思っている以上に睡眠に影響します。

体は家に帰っていても、脳が仕事から離れられない。

これでは、布団に入っても休息モードに切り替わりにくくなります。

3. 日中の眠気対策を行う

日中の眠気がある職場では、午後のパフォーマンス設計も重要です。

昼食後に短い散歩を入れる。
15〜20分程度の短時間仮眠を認める。
午後の単調作業を避ける。
重要な判断業務は午前中に置く。
会議時間を短くする。
カフェイン摂取のタイミングを教育する。
強い眠気がある人には医療相談を促す。

ただし、仮眠は根本解決ではありません。

夜の睡眠不足を昼寝で完全に補うことはできません。

あくまで、日中のパフォーマンス低下を軽減する補助策です。

根本は、夜の睡眠と働き方の見直しです。

4. 不眠への早期対応を行う

不眠は放置しない方がよいです。

寝つきが悪い。
夜中に目が覚める。
朝早く目が覚める。
寝ても疲れが取れない。

これが続くと、仕事への影響が出ます。

不眠は本人が我慢しやすい問題です。

「忙しいから仕方ない」
「ストレスだから仕方ない」
「眠れないのはいつものこと」

そう思って放置されやすい。

でも、不眠が続くと、プレゼンティーズムだけでなく、メンタル不調にもつながる可能性があります。

企業としては、不眠を早めに拾い上げる仕組みが必要です。

ストレスチェック。
産業医面談。
睡眠チェック。
相談窓口。
睡眠研修。
必要に応じた医療連携。

この流れをつくることが重要です。

5. 身体・寝具・寝室環境も整える

睡眠改善というと、生活習慣だけに目が向きがちです。

でも、実際には身体や寝具、寝室環境も関係します。

首が痛い。
腰が痛い。
寝返りしづらい。
呼吸しづらい。
朝から体がこわばる。
枕が合わない。
マットレスが柔らかすぎる。
寝室が暑い。
湿度が高い。
光や音が気になる。

こうした要因があると、睡眠の質は下がります。

睡眠中に身体が回復しにくい。
朝から痛みがある。
仕事中に姿勢が崩れる。
疲れやすい。
集中できない。

この流れも、プレゼンティーズムにつながります。

だから、睡眠支援は「早く寝ましょう」だけでは不十分です。

生活リズム。
自律神経。
呼吸。
姿勢。
痛み。
寝具。
寝室環境。
働き方。

これらを統合して見る必要があります。

ここは、作業療法士として特に大切にしたい視点です。

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経営者・管理職に伝えたいこと

経営者や管理職に一番伝えたいのは、これです。

社員が出勤していることと、社員が本来の力を発揮していることは違います。

勤怠だけを見ていると、プレゼンティーズムは見えません。

でも、現場では確実に起きています。

集中力が落ちる。
判断力が落ちる。
ミスが増える。
感情が不安定になる。
コミュニケーションが雑になる。
顧客対応の質が落ちる。
チームの雰囲気が悪くなる。

これらの背景に、睡眠問題が隠れていることがあります。

睡眠は福利厚生ではありません。

これからの時代、睡眠は人的資本のコンディション管理です。

社員の能力を採用するだけでは不十分です。
社員の能力が発揮される状態を整える必要があります。

そのために、睡眠は非常に重要な経営テーマです。

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まとめ|睡眠改善は、翌日の働く力を取り戻す投資である

プレゼンティーズムとは、出勤しているにもかかわらず、心身の不調によって本来のパフォーマンスを発揮できていない状態です。

そして、睡眠不足、不眠、睡眠の質低下、睡眠リズムの乱れ、日中の眠気は、このプレゼンティーズムに深く関係します。

睡眠不足は、単なる眠気ではありません。

集中力を落とします。
判断力を落とします。
ミスを増やします。
感情コントロールを弱くします。
痛みや身体不調を強めます。
チームの空気にも影響します。

つまり、睡眠は個人の健康問題であると同時に、企業の生産性問題です。

健康経営や人的資本経営に取り組むなら、睡眠を後回しにしてはいけません。

睡眠改善とは、夜を整えることではありません。翌日の働く力を取り戻すことです。

社員が出勤しているかどうかだけを見る時代から、社員が本来の力を発揮できているかを見る時代へ。

その入り口に、睡眠があります。

「これ、自分だけじゃないかも」と感じたら、同じように悩んでいる人にもシェアしてあげてください。

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睡眠の質を高めるために知っておきたい公的エビデンス

睡眠の質は「なんとなく良い・悪い」で判断するものではなく、科学的にも明確な指標や推奨が存在します。

例えば、厚生労働省では生活習慣や環境が睡眠に与える影響について詳しく解説されており、日中の活動量や光の使い方、就寝前の行動が睡眠の質を左右することが示されています( 厚生労働省 睡眠対策ページ)。

また、最新の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、適切な睡眠時間や生活リズムの整え方が具体的に示されており、特にスマートフォンの使用や夜間の光環境が睡眠に大きな影響を与えることが明記されています( 睡眠ガイド2023(厚生労働省))。

さらに、国立精神・神経医療研究センターのガイドラインでは、不眠や日中の眠気といった睡眠障害のメカニズムや対処法についても詳しく解説されており、医学的な視点からも睡眠の重要性が示されています( 睡眠障害ガイドライン(NCNP))。

国際的にも、WHO(世界保健機関)は睡眠を健康の重要な要素と位置づけ、身体活動や生活習慣と並ぶ「健康の柱」として推奨しています( WHO 睡眠に関するガイドライン)。

このように、睡眠は個人の感覚だけでなく、国内外の研究や公的機関によってその重要性が裏付けられています。

だからこそ「なんとなく」ではなく、根拠に基づいた習慣づくりが重要になります。

FAQ

プレゼンティーズムとは何ですか?

プレゼンティーズムとは、出勤しているにもかかわらず、心身の不調によって本来のパフォーマンスを発揮できていない状態です。欠勤とは違い、勤怠データには表れにくいため、企業にとって見えにくい生産性損失になります。

睡眠不足は仕事の生産性に影響しますか?

影響します。睡眠不足は集中力、判断力、注意力、感情コントロール、ミスの抑制に関わります。本人は出勤していても、脳と身体が回復していなければ、本来のパフォーマンスを発揮しにくくなります。

休日に寝だめすれば、平日の睡眠不足は補えますか?

ある程度の回復にはなりますが、平日の睡眠不足によって起きた仕事中の集中力低下や判断ミスを完全になかったことにはできません。勤務日の睡眠不足は、休日に長く寝るだけでは補いきれない可能性があります。

日中の眠気が強い社員にはどう対応すればよいですか?

まずは責めずに、睡眠時間、睡眠の質、残業、ストレス、いびきや無呼吸の有無を確認することが大切です。特に強い眠気、いびき、無呼吸の指摘、起床時頭痛、高血圧などがある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性もあるため、医療機関への相談が必要です。

健康経営で睡眠に取り組むメリットは何ですか?

睡眠は、集中力、判断力、メンタル、痛み、疲労感、コミュニケーションに影響します。睡眠改善に取り組むことで、社員の回復力を高め、プレゼンティーズムによる見えにくい生産性低下を防ぐことが期待できます。

睡眠改善だけでプレゼンティーズムは解決しますか?

睡眠改善だけですべてが解決するわけではありません。業務量、人間関係、職場環境、マネジメント、評価制度なども関係します。ただし、睡眠は働く力の土台であり、プレゼンティーズム対策の重要な入口になります。

参考文献・引用元

  1. 経済産業省. 健康経営オフィスレポート. https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/kenkokeieioffice_report.pdf
  2. Takano Y, et al. A systematic review of the effect of sleep interventions on presenteeism. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8597302/
  3. Itani O, et al. A cross-sectional epidemiological study of the relationship between sleep and presenteeism in workers. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10897641/
  4. Takano Y, et al. Presenteeism and sleep duration on workdays and days off. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38682567/
  5. Takano Y, et al. A systematic review of the effect of sleep interventions on presenteeism. PubMed. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34789296/
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