
この記事を書いたのは
睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。
医療現場で延3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、「動きと休息のすゝめ」をベースに、現在は「Totonoe-整-」を運営しています。
国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。
ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。
本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。
「7時間寝たはずなのに、なぜか頭がぼんやりする」
「睡眠時間は足りているのに、身体の疲れが抜けない」
そんな経験はありませんか?
睡眠は、朝までずっと同じ深さで続いているわけではありません。
浅い睡眠、深い睡眠、夢を見やすい睡眠など、性質の異なるステージを行き来しながら、脳と身体の状態を整えています。
睡眠時間だけでなく、
その時間の中で、どのような睡眠がつくられていたのか。
ここまで見ることで、睡眠をもう少し深く理解できるようになります。
今回は、睡眠オタクな作業療法士の視点から、睡眠の各ステージで脳と身体に何が起きているのかを解説します。

睡眠は「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」に分けられる
人の睡眠は、大きく次の2種類に分けられます。
- ノンレム睡眠:NREM睡眠
- レム睡眠:REM睡眠
ノンレム睡眠は、さらに浅い順にN1・N2・N3の3段階に分類されます。
つまり、現在一般的に用いられている睡眠ステージは、次の4つです。
- ノンレム睡眠N1
- ノンレム睡眠N2
- ノンレム睡眠N3
- レム睡眠
以前は、深いノンレム睡眠をステージ3とステージ4に分けていました。
しかし、現在の睡眠判定基準では、この2つはまとめて「N3」として扱われます。【E1】
元の資料や古い睡眠解説で「睡眠には5段階ある」と書かれていることがありますが、これは旧分類に基づく説明です。
睡眠ステージは何を見て判断するのか
睡眠ステージは、本人の感覚だけで判断しているわけではありません。
医療機関の睡眠検査では、主に次の情報を組み合わせて判定します。
- 脳波
- 眼球運動
- 顎周辺の筋活動
- 呼吸
- 心拍
- 身体の動き
睡眠ステージを判定する中心的な検査が、**終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)**です。
脳波だけを見るのではなく、眼球運動や筋緊張なども含めて、「今、どの睡眠ステージにいるのか」を判定します。
スマートウォッチや睡眠アプリでも睡眠ステージが表示されますが、多くの機器は脳波を直接測定していません。
心拍数や身体の動きなどから睡眠ステージを推定しているため、医療機関の検査と同じ精度ではないことは理解しておきたいところです。

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N1|起きている状態から睡眠へ移る入り口
N1は、覚醒と睡眠の境目にあたる非常に浅い睡眠です。
目を閉じてリラックスしているときには、脳波にアルファ波が現れます。
眠りに入るとアルファ波が減少し、主にシータ帯域の緩やかな脳波が見られるようになります。【E2】
この段階では、まだ周囲の音に反応しやすく、名前を呼ばれると比較的簡単に目が覚めます。
起こされた本人が、
「まだ寝ていなかった」
と感じることも珍しくありません。
入眠時に身体がビクッと動く、ヒプニックジャークが起こることもあります。
N1は、睡眠全体の中では比較的短く、成人では総睡眠時間の数%程度が一つの目安です。【E3】
ただし、睡眠が頻繁に中断されている人では、N1の割合が増える場合があります。
N1があること自体が悪いのではありません。
問題になるのは、何度も覚醒してN1へ戻り、深い睡眠へ進みにくくなっている状態です。
N2|一晩で最も長く過ごす睡眠ステージ
N2に入ると、単にうとうとしている状態から、より明確な睡眠へ移っていきます。
成人では、一晩の睡眠時間の中でN2が最も大きな割合を占めます。
一般的には、総睡眠時間の約半分がN2とされています。【E3】
N2の脳波には、特徴的な波形が現れます。
睡眠紡錘波(スリープスピンドル)
睡眠紡錘波は、短時間だけまとまって現れる比較的速い脳波です。
英語では「Sleep spindle」と呼ばれます。
外部からの刺激が脳へ入りすぎないようにする働きや、記憶の固定、学習した情報の処理との関連が研究されています。
つまりN2は、ただ深い睡眠へ向かう途中の段階ではありません。
脳が外部との接続を弱めながら、眠りを維持し、情報を整理している大切な時間です。
K複合波(Kコンプレックス)
K複合波は、大きく鋭い波の後に、ゆっくりした波が続く特徴的な脳波です。
睡眠中に音や刺激が入ったときにも現れることがあります。
外部刺激を検知しながらも、すぐには覚醒せず、睡眠を保つための反応の一つと考えられています。
N2では、心拍数や呼吸が穏やかになり、体温も低下していきます。
私たちが一晩の中で最も長く滞在する、睡眠の土台ともいえるステージです。
N3|最も深いノンレム睡眠
N3は、一般的に「深い睡眠」と呼ばれるステージです。
スローウェーブスリープ、徐波睡眠、デルタ睡眠と呼ばれることもあります。
この段階では、周波数が低く振幅の大きい徐波が脳波の中に多く現れます。
呼びかけや周囲の音に対する反応も弱くなり、起こされたときには、しばらく頭が働かないことがあります。
これを睡眠慣性といいます。
深い睡眠から突然起こされたときに、
「自分がどこにいるのか分からない」
「身体が重くて動けない」
「しばらく頭がぼんやりする」
と感じるのは、睡眠慣性の影響かもしれません。
N3では、身体の回復に関係する生理的変化が起こります。
成長ホルモンの分泌、組織修復、エネルギー代謝、免疫機能などとの関連が示されています。
ただし、
N3だけが身体を回復させている
と考えるのは少し単純です。
身体の回復は一つの睡眠ステージだけで完結するものではありません。
N1、N2、N3、REMを含む睡眠全体の中で、複数の生理機能が連携して進んでいきます。
また、深い睡眠は一晩の前半に多く現れる傾向があります。
そのため、寝る時間が短くなった場合だけでなく、睡眠が頻繁に中断される場合にも、N3が安定して続きにくくなる可能性があります。

レム睡眠|脳が活発に働く不思議な睡眠
REMは「Rapid Eye Movement」の略です。
日本語では、急速眼球運動睡眠と呼ばれます。
名前のとおり、まぶたを閉じたまま眼球が素早く動くことが特徴です。
レム睡眠中の脳波は、深いノンレム睡眠のような大きくゆっくりした波ではなく、覚醒時に近い低振幅・混合周波数の活動を示します。【E2】
眠っているのに、脳は比較的活発に動いている。
一方で、姿勢を支える多くの骨格筋の活動は強く抑えられます。
この状態は、レム睡眠筋無力(REM atonia)と呼ばれます。
ただし、全身の筋肉が完全に麻痺しているわけではありません。
呼吸を維持する横隔膜や眼球を動かす筋肉など、一部の筋活動は保たれています。
呼吸や心拍数は、ノンレム睡眠と比べて変動しやすくなります。
レム睡眠では夢を見る?
レム睡眠では、映像的で感情を伴う夢が報告されやすい傾向があります。
ただし、
「夢を見るのはレム睡眠だけ」
というわけではありません。
ノンレム睡眠中にも夢や思考に近い体験は起こります。
レム睡眠で見られる夢は、比較的鮮明で物語性があり、ノンレム睡眠の夢は思考的で断片的な傾向があるとされていますが、きれいに分けられるものではありません。
レム睡眠と記憶・感情
レム睡眠は、記憶や学習、感情情報の処理との関連が研究されています。
ただし、記憶の整理もレム睡眠だけで行われているわけではありません。
N2で見られる睡眠紡錘波や、N3の徐波睡眠も、記憶の固定に関係します。
つまり、
深い睡眠は身体、レム睡眠は脳
という説明は分かりやすいのですが、正確には少し単純化されすぎています。
脳も身体も、複数の睡眠ステージを使いながら回復していると捉えたほうがよいでしょう。
レム睡眠とノンレム睡眠の違い
| 項目 | ノンレム睡眠 | レム睡眠 |
|---|---|---|
| ステージ | N1・N2・N3 | REMの1段階 |
| 脳波 | 浅い睡眠から徐波睡眠まで変化する | 覚醒時に近い低振幅・混合周波数 |
| 眼球運動 | N1では緩やかな動きが見られることがある | 急速眼球運動が見られる |
| 筋活動 | 深くなるほど低下するが保たれている | 多くの骨格筋の活動が強く抑制される |
| 呼吸・心拍 | 比較的規則的 | 変動しやすい |
| 夢 | 夢を見ることはある | 鮮明で物語性のある夢が多い傾向 |
| 一晩での分布 | N3は前半に多い | 後半になるほど長くなる |
| 主な特徴 | 睡眠の維持、徐波活動、身体機能や記憶との関連 | 感情、記憶、脳機能との関連 |
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各睡眠ステージの割合
健康な成人における睡眠ステージの一般的な目安は、次のように示されることがあります。
- N1:約5%
- N2:約50%
- N3:約20%
- REM:約25%
ただし、この数字は「全員が達成すべき理想値」ではありません。【E3】
睡眠ステージの割合は、次のような条件でも変わります。
- 年齢
- 睡眠時間
- 睡眠不足の蓄積
- ストレス
- 飲酒
- 薬の影響
- 運動量
- 睡眠時無呼吸症候群
- 睡眠を測定した環境
- その日の体調
特にN3は、加齢とともに減少する傾向があります。
若い人と高齢者の睡眠ステージを、同じ割合で評価することはできません。
スマートウォッチに、
「深い睡眠が18%しかなかった」
と表示されたとしても、それだけで睡眠に問題があるとは判断できません。
一晩の数字だけで一喜一憂せず、日中の眠気、起床時の感覚、睡眠の連続性なども含めて見ることが大切です。
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睡眠サイクルは90分ぴったりではない
一晩の睡眠では、N1、N2、N3、REMが一定の流れをつくりながら繰り返されます。
一つの睡眠サイクルは、一般的に約90〜110分、資料によっては90〜120分程度と説明されます。【E4】
ただし、毎回きっちり90分で回っているわけではありません。
サイクルの長さは、同じ人でも一晩の中で変わります。
一晩の典型的な流れとしては、
N1
↓
N2
↓
N3
↓
N2
↓
REM
という順序をたどり、その後、再びノンレム睡眠へ戻ります。
一晩に4〜6回程度のサイクルを繰り返しますが、それぞれのサイクルの中身は同じではありません。
一晩の前半
前半はN3が多く、深いノンレム睡眠がまとまって現れやすくなります。
一晩の後半
後半になるほどN3は減少し、レム睡眠の時間が長くなります。
ここが、睡眠時間を削るともったいない理由の一つです。
早朝の睡眠を削ると、一晩の後半に増えるレム睡眠も削られやすくなります。
ただし、
「最初の3時間で深い睡眠を取れば十分」
という意味ではありません。
前半の深い睡眠も、後半のレム睡眠も、どちらも含めて一晩の睡眠です。

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睡眠は「深い睡眠の量」だけで評価できない
睡眠アプリを見ると、どうしても深い睡眠の数字が気になります。
深い睡眠が多ければ、睡眠の質が高いように感じますよね?
しかし、睡眠の質はN3の割合だけでは決まりません。
例えば、深い睡眠が一定量あっても、何度も呼吸が止まり、細かな覚醒を繰り返していたら、睡眠は分断されています。
反対に、深い睡眠の割合が平均より少なくても、朝すっきり起きられ、日中に強い眠気がなく、身体も回復しているのであれば、数字だけで悪い睡眠とはいえません。
確認したいのは、次のような点です。
- 必要な睡眠時間を確保できているか
- 睡眠が何度も中断されていないか
- 起床時に回復感があるか
- 日中に強い眠気がないか
- 集中力や気分が保たれているか
- いびきや無呼吸を指摘されていないか
睡眠ステージは大切な情報ですが、睡眠全体の一部分です。
数字ではなく、身体の状態や日中の生活まで含めて評価する必要があります。
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まとめ|睡眠は一つの状態ではない
睡眠は、ただ意識を失って休んでいる時間ではありません。
N1では、覚醒から睡眠へ移行する。
N2では、外部との接続を弱めながら眠りを維持する。
N3では、脳波がゆっくりとなり、深い睡眠がつくられる。
レム睡眠では、筋活動が抑えられる一方で、脳は比較的活発に働く。
これらのステージを一晩の中で何度も行き来しながら、私たちの脳と身体は翌日に向けて整えられていきます。
大切なのは、特定のステージだけを増やそうとすることではありません。
身体が必要とする睡眠時間を確保し、途中で何度も分断されず、自然な睡眠サイクルを最後までつくれることです。
私は、睡眠の質を考える前に、まず睡眠のための時間を確保することが大切だと考えています。
時間がなければ、必要な睡眠ステージを十分に繰り返すこともできません。
睡眠を余った時間に入れるのではなく、
睡眠時間を先に予定に入れる。
自分の身体を回復させる時間として、今一度、一日のスケジュールを見直してみてください。
「これ、自分だけじゃないかも」と感じたら、同じように悩んでいる人にもシェアしてあげてください。
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睡眠の質を高めるために知っておきたい公的エビデンス
睡眠の質は「なんとなく良い・悪い」で判断するものではなく、科学的にも明確な指標や推奨が存在します。
例えば、厚生労働省では生活習慣や環境が睡眠に与える影響について詳しく解説されており、日中の活動量や光の使い方、就寝前の行動が睡眠の質を左右することが示されています( 厚生労働省 睡眠対策ページ)。
また、最新の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、適切な睡眠時間や生活リズムの整え方が具体的に示されており、特にスマートフォンの使用や夜間の光環境が睡眠に大きな影響を与えることが明記されています( 睡眠ガイド2023(厚生労働省))。
さらに、国立精神・神経医療研究センターのガイドラインでは、不眠や日中の眠気といった睡眠障害のメカニズムや対処法についても詳しく解説されており、医学的な視点からも睡眠の重要性が示されています( 睡眠障害ガイドライン(NCNP))。
国際的にも、WHO(世界保健機関)は睡眠を健康の重要な要素と位置づけ、身体活動や生活習慣と並ぶ「健康の柱」として推奨しています( WHO 睡眠に関するガイドライン)。
このように、睡眠は個人の感覚だけでなく、国内外の研究や公的機関によってその重要性が裏付けられています。
だからこそ「なんとなく」ではなく、根拠に基づいた習慣づくりが重要になります。
参考文献・参考情報
【E1】Tharion E, et al. “Sleep stages” in physiology teaching: a wakeup call!
現在の分類では、ノンレム睡眠をN1・N2・N3に分け、旧分類のステージ3と4をN3に統合しています。
【E2】Carley DW, Farabi SS. Physiology of Sleep.
覚醒からN1、N2、N3、REMへ移行する際の脳波や生理学的特徴について解説されています。
【E3】Shrivastava D, et al. How to interpret the results of a sleep study.
成人におけるN1・N2・N3・REMの一般的な割合の目安が示されています。
【E4】Patel AK, et al. Physiology, Sleep Stages.
睡眠ステージの特徴、一般的な移行順序、睡眠サイクルの時間などが整理されています。
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