
この記事を書いたのは
睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。
医療現場で延3万人以上の睡眠と身体の悩みに向き合い、「動きと休息のすゝめ」をベースに、現在は「Totonoe-整-」を運営しています。
国家資格である作業療法士として、姿勢や動作の専門知識をもとに、科学的かつ実践的な睡眠改善を提案しています。専門職の育成や技術指導にも携わっています。
ブログ以外にも、書籍出版や講演、教育機関での授業など、睡眠のことをお伝えしています。
本ブログでは、医学的根拠と臨床経験に基づいた“リアルに使える睡眠情報”を、誰にでもわかりやすく、かつ深掘りしてお届けしています。
「睡眠は大切です」
これは、もう多くの人が知っていると思います。
でも、ひとつ聞きたいんです。
何のために、ちゃんと眠るのでしょうか?
健康のため。
疲れを取るため。
病気にならないため。
もちろん、それも大切です。
でも、睡眠オタクな作業療法士として、私はもう少し先を見ています。
睡眠を整えるのは、よく眠るためではない。
自分がやりたいことを、やり続けるため。
私は、そう考えています。

寝不足で失うのは、「睡眠時間」だけじゃない
まず、結論から。
睡眠が大切なのは、眠ること自体が大切だからではありません。
睡眠が足りなくなることで、翌日の身体や脳の働きに影響が出る。
そして、その結果として、
仕事。
子育て。
運動。
趣味。
人との時間。
そういった、自分が本当はやりたいことがやりづらくなっていく。
ここが、睡眠不足の本当の怖さだと思っています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、睡眠不足によって、日中の眠気や疲労だけでなく、情動の不安定さ、注意力や判断力の低下、作業効率の低下などが生じることが示されています。参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
さらに、2024年に発表された44研究をまとめたメタ解析では、一晩だけ睡眠時間を2〜6時間に制限した場合でも、眠気が強くなり、持続的な注意が低下することが確認されています。
ただし、ここは大事です。
一晩寝不足になっただけで、すべての認知機能が低下するわけではありません。
「寝不足になると脳が全部ダメになる」みたいな話ではない。
でも、日常生活に必要な機能の一部には、影響が出る。
だから私は、
「寝不足だと眠くなりますよ」
だけでは終わらせたくないんです。
その寝不足によって、あなたの生活で何が起こるのか。
そこまで見てほしい。

「集中力が落ちます」では、人はなかなか動かない
睡眠不足について調べると、よく出てくる言葉があります。
集中力が低下する。
判断力が低下する。
作業効率が低下する。
もちろん、大切な情報です。
でも、これだけだと少し遠いんですよね。
では、その先に何が起こるのか。

集中できない。
だから、いつもなら30分で終わる仕事に1時間かかる。
注意が続かない。
だから、確認漏れやミスが増える。
頭が働かない。
だから、考えること自体がしんどくなる。
疲れている。
だから、仕事から帰って子どもと遊ぶ余裕がない。
休日なのに身体が重い。
だから、本当は出かけたいのに「今日はいいか」となる。
こうやって考えてみると、もう睡眠だけの問題ではありません。
生活の問題です。
睡眠不足によって失うのは、「眠気のない自分」ではなく、やりたいことができる自分なのかもしれない。
子どもと長く生きたい。だから、眠りにこだわる
たとえば、私にもあります。
子どもの成長を、できるだけ長く見ていたい。
一緒に遊びたい。
旅行にも行きたい。
大人になった子どもと、ご飯を食べたい。
その先も見ていたい。
だったら、ただ長生きすればいいわけではないんですよね。

自分の足で歩ける。
行きたい場所へ行ける。
話せる。
考えられる。
笑える。
長く生きたいのではなく、長く「生きたいように生きたい」。
そのために身体を大切にする。
運動する。
食事を考える。
人とのつながりを持つ。
病気があれば治療する。
そして、眠る。
「睡眠にいいから寝る」のではない。
大切な人と、できるだけ長く一緒にいたいから眠る。
私は、この順番の方がずっとしっくりきます。

介護される時間より、元気に動ける時間を長くしたい
作業療法士として働いていると、今まで当たり前にできていたことが、できなくなる場面に関わることがあります。
歩く。
着替える。
トイレへ行く。
お風呂に入る。
料理する。
買い物へ行く。
車を運転する。
友人に会う。
旅行へ行く。
元気なときには、どれも「できて当たり前」かもしれません。
でも、違います。
この一つひとつが、その人の生活です。
だから私は「健康寿命を伸ばす」という言葉も、単に病気にならないという意味では捉えていません。
自分でできること。
自分で選べること。
自分で行きたいところへ行けること。
そんな時間を、できるだけ長く残したい。
睡眠も、そのために考えておきたいものの一つです。
厚生労働省では、適正な睡眠時間の確保や睡眠休養感の向上を、健康づくりにおける重要な課題として位置づけています。参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
もちろん、
「よく眠れば介護にならない」という意味ではありません。
そんな単純な話ではない。
健康寿命には、病気、運動、食事、社会参加、生活環境など、いろいろなものが関わっています。
睡眠だけですべてが決まるわけではない。
でも、
だからといって、毎日繰り返している睡眠を軽く見ていい理由にもならない。
私はそう思っています。

「家族に優しくしたい」も、眠る理由になる
睡眠について、意外と見落とされやすいのが感情です。
2024年に発表された154研究、5,717人を対象としたメタ解析では、睡眠を失うことで、ポジティブな感情の低下や不安症状の増加などが確認されています。
睡眠喪失は、ポジティブな感情の低下や不安症状の増加など、感情機能にも影響することが報告されています。参考:Palmer CA, et al. Psychological Bulletin. 2024.
これも「感情調整に影響します」と言われると、少し難しく感じる。
だったら、生活に置き換えてみる。
普段なら気にならないことでイライラする。
子どもの行動に余裕をもって対応できない。
パートナーとの会話が面倒になる。
仕事で起きたちょっとしたことを、一日引きずる。
もちろん、それが全部睡眠のせいだとは言いません。
人間、そんなに単純ではない。
でも、
「最近なんか余裕がないな」
と思ったときに、
「そういえば、最近ちゃんと眠れているかな?」
と振り返ってみる。
その視点は、持っていていいと思います。

休日を「寝て終わる日」にしないために
旅行したい。
運動したい。
子どもと遊びたい。
友人に会いたい。
本を読みたい。
趣味を楽しみたい。
新しいことにも挑戦したい。
やりたいことはある。
時間もある。
でも、身体がついてこない。
「今日は疲れてるし、また今度でいいか」
そうやって、一日が終わる。
もちろん、休む日が必要なこともあります。
疲れている日に休むことは悪いことではありません。
むしろ必要です。
ただ、
いつも眠い。
いつも疲れている。
いつも何かをする余力がない。
これが続いているなら、一度睡眠を振り返ってほしい。
人生には時間があります。
でも、
時間があっても、それを使える身体と頭がなければ、やりたいことはできない。
時間を増やすことはできません。
でも、その時間を使える自分でいることは考えられる。
そこにも、睡眠は関係しています。

睡眠不足の怖さは、「いつか病気になる」だけじゃない
睡眠について検索すると、いろいろな病気の名前が出てきます。
肥満。
高血圧。
2型糖尿病。
心疾患。
脳血管障害。
慢性的な睡眠の問題と、こうした疾患リスクとの関連は報告されています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、慢性的な睡眠不足や睡眠休養感の低下と、さまざまな健康リスクとの関連が整理されています。参考:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
もちろん、これは大切な話です。
でも、
「将来、病気になるかもしれません」
と言われても、なかなか自分ごとにならない人もいると思います。
だったら、もっと近くを見る。
今日、仕事に集中できない。
今日、子どもに優しくできない。
今日、身体を動かす気になれない。
今日、好きなことをする元気がない。
これは将来の話ではありません。
今日の話です。
睡眠不足によって失うものは、将来の健康だけではない。
今日という一日の使い方にも関係している。
だからこそ、睡眠を後回しにしてほしくないんです。

作業療法士だから、「眠れているか」より「何ができているか」を見る
私は作業療法士です。
作業療法では、筋力が何kgあるとか、関節が何度動くとか、身体機能だけを見るわけではありません。
その身体で、
その人が何をしたいのか。
そこを見る仕事でもあります。
仕事に戻りたい。
料理をしたい。
孫を抱きたい。
旅行へ行きたい。
趣味を続けたい。
自分でトイレへ行きたい。
もう一度、車を運転したい。
その人の「やりたい」から、身体を考える。
だから、睡眠についても同じです。
「何時間寝ていますか?」だけでは終わらない。
私はむしろ、
「その睡眠で、昼間に何ができていますか?」
こっちが気になります。
朝、すっきり起きられるのか。
仕事に集中できるのか。
日中に強い眠気がないのか。
子どもと遊ぶ余裕があるのか。
休日に出かけられるのか。
好きなことを楽しめているのか。
睡眠は夜だけを見ても、分からない。
昼間の生活まで見て、初めて分かることがあります。
\よく読まれるノート/
「睡眠の質を上げたい」その先に、何がありますか?
最近、本当によく聞く言葉があります。
「睡眠の質を上げたい」
もちろん、悪いことではありません。
でも私は、もう一つ聞きたくなります。
「睡眠が良くなったら、何をしたいですか?」
朝から元気に動きたい。
仕事に集中したい。
子どもと遊びたい。
運動したい。
休日を楽しみたい。
旅行に行きたい。
歳を重ねても、自分のことは自分でしたい。
こっちの方が大事じゃないですか?
ちなみに、「睡眠の質」という言葉には、これだけを見ればいいという単一の指標があるわけではありません。
厚生労働省では、睡眠時間という「量」だけでなく、朝起きたときに「睡眠によって休養がとれた」と感じられる睡眠休養感も、睡眠を考える重要な指標として扱っています。
何時間寝たかだけではなく、眠った結果、昼間の自分はどうなのか。
ここまで見てほしいと思っています。

睡眠をよくすることを、ゴールにしない
私は睡眠が好きです。
枕も見る。
マットレスも見る。
姿勢も見る。
呼吸も見る。
生活リズムも見る。
日中の活動も見る。
たぶん、普通の人よりかなり細かく見ています。
でも、
睡眠そのものを良くすることが、最終目的ではありません。
私が見たいのは、その先です。
子どもの成長を長く見ていたい。
いつまでも自分の足で歩きたい。
仕事を楽しみたい。
家族と穏やかに過ごしたい。
旅行へ行きたい。
スポーツを続けたい。
好きなことを諦めたくない。
新しいことにも挑戦したい。
睡眠は、その「やりたい」を守るためのもの。
だから、
「何時間寝ればいいですか?」
だけではなく、たまにはこんなことも考えてみてほしいんです。
私は、何のために眠るんだろう?
その答えは、人によって違っていい。
子どもと長く生きたい。
介護されずに、自分のことは自分でしたい。
明日もいい仕事をしたい。
休日を楽しみたい。
好きな人と、できるだけ長く笑っていたい。
それでいいと思います。
睡眠は目的ではない。
やりたいことを、やり続けるためのもの。
睡眠オタクな作業療法士として、私はそんな睡眠の話を、これからも伝えていきたいと思っています。
\最新の臨床ノート/
よくある質問
なぜ睡眠は大切なのですか?
睡眠不足は、日中の眠気や疲労だけでなく、注意力、判断力、感情、作業効率などにも影響します。その結果、仕事や子育て、運動、趣味など、昼間の生活そのものに影響する可能性があるためです。
睡眠不足になると何が起こりますか?
日中の眠気や疲労、注意力や判断力の低下、情動の不安定さ、作業効率の低下などが起こりやすくなります。慢性的な睡眠の問題は、さまざまな身体的・精神的な健康リスクとも関連しています。
一晩寝不足になるだけでも影響がありますか?
一晩の睡眠制限でも、眠気が増えたり、持続的な注意が低下したりすることがメタ解析で示されています。一方で、すべての認知機能が一律に低下するわけではありません。
睡眠を改善すれば健康寿命は伸びますか?
睡眠だけで健康寿命が決まるわけではありません。運動、食事、疾患、社会参加、生活環境など、さまざまな要因が関係します。そのうえで、適切な睡眠を確保することは、健康づくりを考える重要な要素の一つです。
「睡眠の質」とは何ですか?
「睡眠の質」を一つの数字だけで表すことはできません。睡眠時間だけでなく、朝起きたときに休養がとれていると感じられる「睡眠休養感」や、日中の眠気、生活リズム、睡眠環境など、複数の視点から考える必要があります。
眠っても疲れが取れない場合はどうすればいいですか?
生活習慣や睡眠環境を見直しても、十分に眠れない、睡眠で休養がとれない、強い日中の眠気が続くなど、生活に支障がある場合には、睡眠障害や他の疾患が隠れている可能性もあります。長く続く場合は、医療機関への相談も検討してください。

この記事を書いたのは
睡眠オタクな作業療法士 石垣貴康です。
睡眠を、ただ「眠るための方法」としてではなく、毎日の生活や心身の状態、そして人生を楽しむための土台として伝えたい。そんな想いで、この記事を書いています。
作業療法士としての臨床経験と、睡眠に関する研究や知識をもとに、難しい内容もできる限り生活に落とし込んでお届けします。
睡眠を知ることで、自分の身体や暮らしを少し大切にしたくなる。そんなきっかけになれば嬉しいです。
この記事が、身近な方の睡眠や生活を見つめ直すきっかけになりそうだと感じたら、ぜひシェアしてください。
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睡眠の質を高めるために知っておきたい公的エビデンス
睡眠の質は「なんとなく良い・悪い」で判断するものではなく、科学的にも明確な指標や推奨が存在します。
例えば、厚生労働省では生活習慣や環境が睡眠に与える影響について詳しく解説されており、日中の活動量や光の使い方、就寝前の行動が睡眠の質を左右することが示されています( 厚生労働省 睡眠対策ページ)。
また、最新の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、適切な睡眠時間や生活リズムの整え方が具体的に示されており、特にスマートフォンの使用や夜間の光環境が睡眠に大きな影響を与えることが明記されています( 睡眠ガイド2023(厚生労働省))。
さらに、国立精神・神経医療研究センターのガイドラインでは、不眠や日中の眠気といった睡眠障害のメカニズムや対処法についても詳しく解説されており、医学的な視点からも睡眠の重要性が示されています( 睡眠障害ガイドライン(NCNP))。
国際的にも、WHO(世界保健機関)は睡眠を健康の重要な要素と位置づけ、身体活動や生活習慣と並ぶ「健康の柱」として推奨しています( WHO 睡眠に関するガイドライン)。
このように、睡眠は個人の感覚だけでなく、国内外の研究や公的機関によってその重要性が裏付けられています。
だからこそ「なんとなく」ではなく、根拠に基づいた習慣づくりが重要になります。
▼オススメ臨床ノート▼
参考資料
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」
- Wüst LN, et al. Impact of one night of sleep restriction on sleepiness and cognitive function: A systematic review and meta-analysis. Sleep Medicine Reviews. 2024.
- Palmer CA, et al. Sleep loss and emotion: A systematic review and meta-analysis of over 50 years of experimental research. Psychological Bulletin. 2024.




